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第27話 作戦決行前夜

明日に備えて寝るかと切り出され、渋々ベッドに潜ったが最後になるかもしれない夜に抱き合いたいと思わないのだろうか。 万全の体制を整える意味でも休息が必要なことは重々承知している。それでも求めずにはいられなかった。 黒が瞳を閉じて寝ようとした瞬間を狙って馬乗りになった。 「…周?」 呆気にとられた顔でこちらを見上げている。無防備な腕をベッドに縫い付けるように抑え込んだ。抱かれるのは俺なのにまるで自分が黒を抱くみたいで変な感じ。 「おい、何を考えてる…」 「黒は惜しくないの?」 「戦いが終われば幾らでも抱き合えるだろう」 「戦いが終わっても互いの肉体と生命が無事ならでしょう」 黒と考え方に相違がある。初めから負けることなど考えていないんだ。どんなことをしても勝って生きる。それしか考えてない。 でも俺は負けることを考えている。向こうも命がけでくるのだから勝利への道は容易ではない。共倒れだってあり得ることだ。 真意を測りかねたような顔をして視線を逸らさない黒に口づけした。 俺を求めてくれと煽るようにどんどん深くなる。ようやく唇を離すと黒は今までに見せたことがないような悲痛な顔をしていた。 「黒、どうしたの?どこが痛い?」 「いや…お前は終わると思っているだな…とすこし悲しくなった」 「終わらせないために鍛えたよ。でもそれは俺だけじゃない。敵側も同じでしょう」 「そうだな。負けて命落とす時に抱き合わなかったことを後悔する。そう思ってるのか?」 「…うん」 黒ともっと抱き合えば良かったってきっと後悔する。悔いを残して死んだら成仏できずにこの世にとどまり黒と離れてしまうかもしれない。 どこまでもネガティブ思考に走る俺を馬鹿にするようにひと笑いでもしてくれれば、少しは払拭できるかもしれないのに黒はそうしない。 優しくなった彼が王冠を手にすることができるだろうか。人は守るものができると弱くなると何かで見た気がする。もしそれが事実なら唯一の強さをもつ帝王はその片鱗を見せることなく命落とすかもしれない。 俺への愛のせいで負けたなんてシャレにならない。それでも今更この思いを無視することなんてお互いにできないだろう。 「幾ら抱いても足りない。これが愛なのか?」 「そうだよ。狂おしいくらい愛してるってこと」 「狂ったつもりはないが、その言葉が適切な気がする」 「続けていい?それともこのまま止める?」 一方的に求めてはいるが無理強いするつもりはない。 始まりは最悪だった。警察官の俺を陥れた彼を恨んだし憎かった。価値観や肉体や心の全てを変えた黒を殺してやりたかった。妹の居場所を知っているような口ぶりで嘲笑い楽しんでいる姿は悪魔そのものだった。 それもどれも全ては過去のこと。 されたことも言われた言葉もどんな酷い仕打ちも記憶からは消えてくれない。それでも俺は許すことにした。 今はかけがえのない存在だ。誰がなんと言おうと変わらない。

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