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第1話『夏祭りの夜に』(2)蒼汰×夏葵

〜side.蒼汰(そうた)〜 「座る場所ここでいいか?」 「あ、はい…」 好みドストライクの顔面にデートに誘われて断る訳がない。 二つ返事でOKして、花火大会の会場へやってきた。 花火まで時間があったから、屋台でビールとタコ焼きを買って、広場の植え込みの近くに並んで腰を下ろした。 生温い風とセミの鳴き声。 屋台からの美味そうなにおいと、皆の楽しそうな笑い声。 乾杯をしてビールを一口飲んだ。 電車で汗だくになったし、外はまだ暑かったからビールが美味かった。 「急に誘ったりしてすみません。親切にしてもらったから、ちゃんとお礼を伝えたくて…」 「別に…大した事してないだろ」 照れ隠しにタコ焼きを口に放り込むと、中がマジで熱くて火傷しそうになった。 それを見ていたそいつは、ふふっと笑ってハンカチを差し出した。 「なぁ、名前教えてくれよ」 「夏葵(なつき)橋本(はしもと)夏葵です」 漢字は想像できなかったけど、爽やかでいい名前だと思った。 「俺は平山(ひらやま)蒼汰(そうた)だ」 「平山…さん」 「蒼汰でいい。俺も夏葵って呼ぶし。言葉づかいももっと適当でいい」 「い、いきなり呼び捨ては緊張しちゃう…」 そう言った夏葵は、恥ずかしそうに俺を『蒼汰』と呼んだ。 夏葵の可愛い唇と声で呼ばれる名前は、特別な気がした。 「手…まだ痛い?」 そう言いながら、さっき夏葵をかばって赤くなった俺の手を優しく撫でる。 男の物とは思えない柔らかな手の感触と、心配そうな表情に心臓がドキン!と音を立てた。 固まったままでいると、察した夏葵が慌てて手を離した。 「ごめんなさい、俺…初めて会った人の手を触るなんて…はしたない事…」 そう言って頰を染めながらうつむいた。 いやいや、さっきも駅で俺の手つかんでたからな。 ちょっと抜けてる感じと、はしたないって思うそのピュアな感じがたまらん!! 清楚で色白で細身で可愛い系の外見と、純粋で優しくて可愛げのある中身の組み合わせなんて大好物だ。 俺の好みを凝縮して人間にしたような夏葵。 …って言うか、世の中の男で夏葵を嫌いな奴いないだろ。 モテるだろうな…。 キスとかした事あるんかな…。 その先も知ってんのかな…。 夏葵が誰か他の奴とキスしたり、エッチな事をしたりするのを想像したら、何かモヤモヤした。 そのモヤモヤを振り払いたくて周りを見ると、こっちをチラチラ見ている男の存在に気づいた。 俺もまぁイケメンの部類に入るタイプで、人から見られるのは慣れていたけど、男は明らかに夏葵を見ていた。 そんなにジロジロ見たら可愛い夏葵が減るだろ…。 夏葵をそういう目で見ている男がいるのが面白くない。 俺は隣にいる夏葵の肩をぐっと抱き寄せた。

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