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第1話『夏祭りの夜に』(3)蒼汰×夏葵

〜side.蒼汰(そうた)〜 「そ、蒼汰!?」 慌てる夏葵(なつき)を両腕で抱きしめた。 夏葵は俺のだ、ヤラシイ目で見るなと、あの男アピールしたかった。 「さっきの電車でも…こうやって密着してただろ」 「それは…そうだけど…」 皆が見てるから…と、恥じらうくせに離れようとはしない夏葵。 むしろ、甘えるみたいにちょっと体を寄せてきた。 マジか!? 夏葵も俺の事気に入ったのか? 俺が恋愛対象じゃなかったり、触られるのが嫌だったりしたら逃げるよな!? それとも…考えたくもないが、ヤレれば誰でもいい清楚ぶったビッチか? 「…蒼汰って…誰にでもこうやって優しくしたり、抱きしめたりするの…?」 不安そうな顔をしながら夏葵が聞いた。 「お、お前こそ…電車で会った奴を花火大会に誘ったり、手…触ったりするのかよ」 「し、しないよ。そんな事…」 する訳ない…と、首を横に振る夏葵。 その必死な様子は本心だと思った。 「俺だってしないぞ」 「…じゃあ…どうして…?どうして俺にこんな事するの…」 夏葵は緊張した表情を浮かべながら、俺のシャツの袖をキュッと握った。 言葉も顔も仕草もいちいち可愛くてどうにかなりそうだ。 「夏葵が…顔も性格も可愛いからに決まってるだろ。お前こそ、何で俺にこんな事されてんだよ…」 「そ、蒼汰が…顔も性格もカッコイイ…から…」 「何だよ、一緒かよ」 「う、うん…」 お互いに一目惚れだったらしい。 最初に気に入ったのは見た目だったけど、話してみたら初めて会ったとは思えない程、夏葵の雰囲気が心地よかった。 抱き合ってもしっくりくる感じだったし、確証はないがたぶん夏葵はネコだ。 喜びを噛み締めながらそのまま体を寄せていると、ドーン…という低い音が響いて、夜空に大きな花が咲いた。 周りから歓声や拍手が上がる。 俺の腕の中で花火を見上げる夏葵も笑顔になった。 無邪気な笑顔が可愛くて、この笑顔を守るためだったら、何だってできると思った。 「夏葵が好きだ。今日逢ったばかりだけど、夏葵に惚れた」 花火の音と歓声にかき消されないよう、夏葵の耳元で囁いた。 驚いた様子でじっと俺を見つめる夏葵。 本気だ…と伝えるつもりでうなずくと、夏葵は幸せそうに微笑んだ。 「俺も…好き。ずっと一緒にいたい。もっと蒼汰の事を知りたい」 夏葵も俺の耳元で囁きながら、誘うみたいにゆっくり俺の胸を撫でた。 震える声がどうしようもなく愛おしい。 それって…帰りたくないって事か…? 俺とそういう事してもいいって事か…? 勘違いじゃない…よな…。 「…よかったら、今日…俺の家に泊まってくか…?」 出逢ったその日に泊まりの誘いなんて軽すぎるってわかってる。 手を出すぞって言ってるようなもんだ。 夏葵が一瞬でもためらったら、冗談だと笑い飛ばすつもりで声をかけた。 「いいの…?」 蒼汰の家行ってみたい…と、夏葵が嬉しそうに笑った。 汚れを知らない天使みたいに笑うから、セックス目的じゃないのかも知れない。 本気でただ遊びに来るつもりなのかも知れない。 それならそれでかまわない。 ゆっくり関係を深めていくのも悪くない。 ドーン……ドーン……と、また花火が上がる。 夏葵のにおいや温もりを感じていたら、無性にキスがしたくなった。 俺はもう夏葵を抱く気満々だからムラムラもするし、下半身だってビンビンに反応していた。 いや、でも待てよ。 初めてのキスだし、ちゃんと意思確認してからの方がいい…よな…。 瞳を輝かせて花火を見上げる夏葵の手を握ると、夏葵が俺を見た。 可愛い顔でじっと見つめられたら、急に恥ずかしくなって何も言えなくなった。 俺、こんなにヘタレだったか…? 「キス…しちゃう?」 ふふっと笑いながら、ちょっと微笑む夏葵。 「する!します!!」 俺がちょっと食い気味に返事をすると、夏葵が小さな声で『じゃあ…お願いします』と言って瞳を閉じた。 心臓の音がやたらうるさいし、手汗も半端ない。 震えも止まらないけど、ここはひとつ思い出に残るようなキスをするぞ。 バレないように深呼吸をして、夏葵のちょっと汗ばんでしっとりした頰に手を添える。 俺たちは夜空を彩る満開の花火の下で、初めてのキスを交わした…。

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