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第1話『夏祭りの夜に』(4)蒼汰×夏葵

〜side.夏葵(なつき)〜 花火大会の帰り道。 蒼汰(そうた)と恋人繋ぎをしながら見つめ合って駅に向かう。 行きは離れて歩いていたのに不思議な感じ。 本当に蒼汰と恋人になったんだなぁと思うと、何だか胸がくすぐったい気がした。 蒼汰が駅前の雑貨屋さんでお揃いの茶碗と箸、イニシャル入りのマグカップを買ってくれた。 『これから2人で一緒に使おうな』そう言ってニッと笑う蒼汰が爽やかでカッコよくて胸がドキドキした。 ドラッグストアで手を繋ぎながら飲み物や歯ブラシを選んでいると、蒼汰が『3分だけここで待っててくれ』と言い残して姿を消した。 ずっと繋いでいた手が離れたのが淋しくなってこっそり後を追うと、真剣な眼差しでコンドームとローションを選んでいた。 本気で俺とセックスするつもりなんだ…。 蒼汰に泊まってくか?って聞かれて、夜のお誘いだ…って気づいた。 嬉しかったし、心拍数も急上昇して体もちょっと反応しかけたけど、セックスする気満々感を出したら引かれる気がした。 せっかく想いを交わした蒼汰に嫌われたくない。 怖がりの俺は、蒼汰の意図に気づいてるのか気づいてないのかわからないような雰囲気を作って笑った。 最初は緊張100%だったけど、蒼汰の家に近づくにつれ、不安が混じり出した。 今日初めて逢ったばかりなのに、家に行ってみたいって言ったり、キスを誘ったりして、軽い奴って思われてないかな…って。 花火大会に行こうって誘ったのも俺だし…。 いつもの俺ならそんな事絶対しない。 人見知りだし、割と用心深い方だし。 電車の中で逢った蒼汰は俺が思い描いていた理想の王子様像そのものだった。 カッコよくて、優しくて、頼りがいがあって…。 もっと話してみたいと思った。 このまま離れ離れになりたくない…そう思ったから、勇気を振り絞って声をかけた。 屋台で何を買うかも、どこで花火を見るかも、俺の気持ちを確認しながらさり気なくリードしてくれて頼もしかった。 守られている気がして安心できたし、話も楽しかったし、蒼汰の隣はとても心地よかった。 相手が蒼汰だったから…。 相手が蒼汰だから好きになったし、家に着いていこうとも思った。 出逢ったばかりだけど、蒼汰と一つになりたいって思った。 どうにかしてこの気持ちが真剣なものだって伝えたかった。 戻ってきた蒼汰は何でもないように振る舞ってたけど、繋いだ手の汗が半端なかった。 蒼汰も緊張してるんだと思ったらホッとしたし、愛おしい気持ちになった。 俺からも蒼汰の手をキュッと握った。 「お邪魔…します」 玄関に入ると、ふわっと男の人のにおいと生活臭の混じったにおいがした。 くさい訳じゃなくて、洗剤の香りとか、食べ物や蒼太のにおいとか…そんなのが混じった蒼汰が生きてるにおい。 そんなプライベートな空間に通してもらえたのが嬉しかった。 アパートは一人暮らしの『THE 男の人の部屋』っていう感じの小ざっぱりした部屋だった。 特別オシャレでもないけど、壊滅的にダサい訳でもない、ごくごく普通の部屋だった。 念のため、さり気なく恋人や出入りしてる人の気配がないかチェックしたけど、そんな気配は微塵も感じられなくて胸を撫で下ろした。 蒼汰は机の上に免許証や保険証、社員証…蒼汰が何者かを証明できそうな物を全部並べて見せてくれた。 俺より2歳お兄さんで、鉄鋼関係のメーカーで働くサラリーマン。 スマホもロック設定を解除して、好きに見ていいって言ってくれた。 きっと俺を安心させるため。 お揃いの食器を買ってくれたのもそう。 一夜限りじゃないっていう蒼汰なりのアピールなんだと思う。 俺への気持ちは本当だ、遊びでも酔った勢いでもないぞって証明するかのような優しさに胸が熱くなった。 部屋に通してもらった時に、恋人の気配がないかを探ってしまった自分を恥ずかしいと思った。 「ありがとう、蒼汰」 蒼汰に大切に想ってもらえるのが幸せで泣きそうになる。 俺のも見せようと思ったら蒼汰が首を横に振った。 「夏葵の事は…夏葵の言葉で聞かせてくれよ」 そう言って微笑んだ。 …俺が何者でもいいの? 俺の事…信じてくれるの? 堪え切れなかった涙がこぼれると、蒼汰が急に慌て出した。 俺の涙に動揺してしまった蒼汰は、洗面所からバスタオルを持ってきて貸してくれた。 抱きしめて指で拭ってくれたらそれでよかったのに、オロオロするなんて可愛い。 そんな人間っぽさも素敵だと思った。 これからは何があっても蒼汰を信じようと心に誓った。

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