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第2話『9日間限定の恋人』(2)俊哉×凪彩
〜side.俊哉 〜
派遣恋人を申し込むぞ!と宣言した俺は、すぐに面談予約を入れた。
そんな次の日の会社帰り。
俺は指定された駅前のオフィスへ出向いた。
通されたのは豪華な応接室。
高級そうなクッキーと、いい香りの紅茶が出てきた。
あまりの待遇のよさにだんだん不安になってくる。
契約するまで帰れないとか、オプションがめちゃくちゃ高いとかそんなんじゃないよな…。
でも佑樹 が大丈夫って言ってたし、今も普段通り生活してるから危なくはないはずだ。
それより本当にあの子は来てくれるだろうか。
客引き用の写真だからきっと多少の加工はされてるに違いない。
期待しすぎるのはよくない。
生はきっとそうでもないはずだ…と、自分に言い聞かせながら渡された資料に目を通す。
今から始まるのはコーディネーターや派遣恋人との面談。
システムの説明を受けて、派遣恋人と2人きりで10分程度会話をして、お互いの同意があれば契約だ。
契約後はどんな恋人を演じて欲しいかとか、毎日の過ごし方とか、細かな打ち合わせをする流れらしい。
「長坂 様、失礼致します」
時間になると、スーツ姿の50歳くらいの男に連れられて派遣恋人の凪彩 が現れた。
昨日俺の目を釘付けにした凪彩はスマホで見た以上に好みのタイプだった。
ゆるっとした白いブラウスに、黒い細身のパンツ、淡い水色の長めのカーディガンを着ていた。
世の中にこんな人間存在するのか…と思うくらいの圧倒的な可愛さ。
清楚でナチュラルな雰囲気の可愛い系。
小柄で色白のスレンダータイプ。
最高だ…!
面談予約をした昨日の俺、よくやった!
「凪彩です。よろしくお願いします…」
恥ずかしそうに会釈をする仕草も、柔らかな声も完璧に好みのツボだった。
何よりも澄んだ瞳が印象的だった。
説明なんてもうどうでもいい。
何が何でも契約して、この子と恋人体験がしたい。
凪彩に2度めの一目惚れをした俺は最長の9日間お泊まりコースの説明を受けた。
そのコースは、土日2回を含む9日間。
金曜日の夜19時から翌週日曜日の夜23時50分まで。
派遣費用は9日間で27万円。
キス以上の性的なサービスはオプションで+18万円。
一瞬、45万円という金額に驚いたが、よくよく考えてみたら1日あたり5万円だ。
24時間勤務だから時給換算したら2,000円とちょっと。
体の相手込みでこの値段。
この金額が丸ごと手取りにはならないだろうから、思ったよりも薄給だ。
いくら契約期間中の派遣恋人の生活費は客が負担するとは言え、これでは割が合わないだろう。
佑樹の友達紹介クーポンを使うのはやめよう。
毎日の食事もいいものにして、夜もなるべく寝かせてあげよう。
諸々で冬のボーナスが丸ごと飛ぶな…。
それでも俺は凪彩と過ごしたいと思った。
派遣恋人の嫌がる事はしない、危ない目にあわせない、充分な食事や睡眠を与えるなど、注意事項がたくさんあったが、要は派遣恋人の人権を守って大切にしろと言う事だった。
そんなの当たり前だ。
こんな可愛い子に酷い事をする訳がない。
説明を終えたコーディネーターが出て行って2人きりになった。
憧れの存在がすぐ側にいる。
どうにも恥ずかしくて直視できないし、緊張して言葉も出てこない。
「あの…永坂さん…」
「は、はい…!」
いきなり名前を呼ばれて声が上擦った。
慌てて紅茶を飲むと、気管に入って盛大にむせた。
だめだ、どうしようもなくカッコ悪い…。
「だ、大丈夫ですか?ごめんなさい…。俺がリラックスできる雰囲気を作らなくちゃいけないのに…」
ちょっとしょんぼりしながら布巾を差し出す顔を見たら申し訳ない気持ちになった。
「いや、俺の方が悪いんです。な、凪彩さんが可愛すぎて緊張してしまって…」
「俺が…可愛い?」
不思議そうな顔で俺を見ていたかと思うと、急にクスクス笑い出した。
愛想笑いじゃなくて、本心から笑ってるように見えた。
「永坂さんって不思議な人。こんな普通の俺が可愛いなんて」
いやいや、その普通っぽさがいいんだ。
この自然体の感じがめちゃくちゃ可愛いだろ…。
「…永坂さんはどうして俺を選んでくれたんですか?せっかく高いお金を出して恋人体験するなら、もっとモデルみたいにキレイな子や、癒し系の可愛い子にすればいいのに…」
「いや、俺は凪彩さんが一番可愛いと思ってそれで…」
凪彩は、しどろもどろで答える俺の話を興味深そうに聞いてくれた。
「ありがとう、永坂さん。…せっかく選んでくれたのに笑ったりしてごめんなさい」
本当はすごく嬉しいです…と微笑む清らかな笑顔に俺はすっかり夢中になった。
その場で契約して、支払いと打ち合わせを済ませた俺は、浮かれて家中の大掃除をした。
布団を干して、シーツも総替えした。
オシャレな観葉植物と、いいにおいのする部屋の芳香剤を買った。
恋人っぽい雰囲気が出た方が楽しいかと思って、お揃いのマグカップや食器も買いに行った。
なるべく一緒に過ごしたくて、有休も取った。
俺の夢の生活の始まりだ。
せっかくだから2人のいい思い出を作りたい。
あの時、楽しかったな…って思い出してもらえるような素敵な思い出を。
俺はそう心に決めた。
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