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第2話『9日間限定の恋人』(3)俊哉×凪彩
〜side.俊哉 〜
「お待たせ、俊 くん。食べよう」
凪彩 が家にいる事に浮かれてニヤニヤしていたら、いつの間にか食事の準備ができていた。
当たり前のように置かれたお揃いの箸やカップ。
俺の望み通り、凪彩は俺の左隣の席だ。
凪彩が買ってきたハンバーグ弁当はデミグラスソースと和風を一つずつ。
いつも両方食べたいと思っていても一度に2つは食べ切れない。
でも同時に両方食べたい。
打ち合わせの時に凪彩に話したら、『じゃあ半分こしよう』と、ワガママを受け入れてくれた。
「俊くん、和風も食べる?」
はい、あーん…と、差し出された一口サイズの和風ハンバーグ。
『はい、あーん』は俺の憧れ。
これも俺の希望だ。
デレデレしながらハンバーグを食べた。
いつものコンビニのハンバーグ弁当が高級レストランのハンバーグみたいに美味かった。
『好みの子が俺好みの恋人を演じてくれるから毎日本当に楽しくて…』
そう言っていた佑樹 の言葉を思い出した。
あの時の佑樹に冷ややかな態度を取って悪かったと謝りたい。
派遣恋人最高だ!
楽しくて仕方ない。
食事を終えて、一緒に片付けをした。
凪彩と一緒なら面倒な洗い物も苦じゃなかった。
デザートは会社帰りに俺が買ってきた。
会社の女の子に聞いた人気のスイーツ店のプリンだ。
生クリームと苺がのったカスタードプリンと、オレンジソースがかかって、ナッツがたくさんのったチョコプリン。
ソファーで座って食べようと声をかけたら、コーヒーとミルクの比率が完璧なカフェ・オ・レをいれてくれた。
「俊くんのチョコプリンも食べてみたい」
可愛いおねだりにデレデレしながらスプーンで一口すくう。
凪彩は何のためらいもなく、俺の手からプリンを食べて『甘くて美味しい』と笑った。
「…お腹いっぱいになったら眠くなっちゃった」
俺にちょっと寄りかかる感じで甘えてくるのも全部打ち合わせ通り。
頭を撫でると嬉しそうにする。
可愛い凪彩が側にいるだけで、心が満たされていく気がした。
契約してよかったし、もっと早く契約すればよかったと心から思った。
「そうだ俊くん、お風呂…入ろ…」
眠そうにしていた凪彩が俺の胸に触れた。
性的な触れ方に心臓が跳ねた。
今から凪彩とヤラシイ事するんだよな…。
ドクンドクンと高鳴る鼓動を感じているうちに急に頭が冷えた。
「待て、やっぱりダメだ。こんなのダメだろ」
「どうして?俊くん、一緒にお風呂に入ってイチャイチャしたいって…」
「言ったけど…。さすがにこれ以上はダメだ。もっと自分を大切にするんだ。いくら仕事でも、好きでもない男とそんな事…」
お金と引き換えに凪彩を思い通りにする契約をした俺が偉そうに言える事じゃないのはわかってる。
凪彩は覚悟の上でこの仕事をしてるんだろうし、今もそのつもりで誘ったはずだ。
それを断るのも失礼な話だが、俺には無理だ。
清楚な凪彩がお金のためだけに、ほぼ初対面の男とヤラシイ事をする現実が受け入れ切れない。
可愛い子とヤれてラッキーとは、どうしても思えない。
「俺は俊くんの恋人だよ。そんな風に拒絶されたら淋しいよ…」
悲しそうな凪彩に決意が揺らぎそうになったけど、俺は譲らなかった。
凪彩に丁重に詫びて、風呂は別々に入った。
はぁ…、俺何やってんだ…。
せっかくいい雰囲気だったのに。
凪彩が演出してくれたのに…。
こんなだから佑樹にも頭が堅いって言われるし、婚約者にも逃げられたのかも知れない。
ベッドは凪彩に譲って俺はソファーで寝ようと思って準備をしていたら、今度は凪彩がソファーで寝ると言って聞かなかった。
俺がソファーで寝るなら、自分は床で寝ると言い出した。
おとなしそうなのに意外と頑固なところがあるんだな…。
俺はそんな凪彩の一面を知る事ができて嬉しかった。
もっと素の凪彩を知る事ができたら面白いと思った。
結局俺が折れる形で、一緒にベッドに入った。
シングルだからどう寝ても体が触れ合う。
好みのタイプの凪彩がすぐ側にいる。
意識するなって言う方が無理だ。
俺にできるのは体が反応している事を隠し通す事だ。
あんな事を言った手前、欲情して勃ってるなんて悟られる訳にはいかない。
「俊くん…」
「ん?」
「おやすみのキスも…だめ?」
さっき、ただいまのキスはしたよ…と至近距離で見つめられたら断れる気がしない。
『待て、一度キスを許したら無理だ。もう止められないぞ!』
『いや、さっきキスもしたし、頭も撫でた。これ以上しなければ大丈夫だろ』
『よく考えろ、凪彩が隣で寝てるだけで勃起してるお前に我慢できる訳ないだろ!?』
頭の中で俺の理性と欲望が戦いを繰り広げる。
答えを出せない俺は黙って凪彩を見つめる事しかできなかった。
「だめ?」
凪彩の上目づかいの破壊力。
俺の理性はあっという間にどこかへ消え失せた。
「あ…挨拶のキスぐらいなら…」
「よかった、嬉しい」
安心したように柔らかく微笑む凪彩は、この世の者とは思えないほど可愛かった。
天使だ、天使に違いない。
「じゃあ…俺からするね」
凪彩がゆっくり体を寄せてくる。
心臓のバクバクが半端ない。
勃起した下半身が当たらないように、そっと腰を引く。
「おやすみ、俊くん」
緊張で乾燥しきった俺の唇に、凪彩の温かくて柔らかな唇が重なった。
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