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第2話『9日間限定の恋人』(5)俊哉×凪彩

〜side.凪彩(なぎさ)〜 見習い期間を経て1か月後に派遣恋人デビューをしたけど、困った事が起きた。 なかなか契約が取れない。 まず、アプリの画像とプロフィールで俺を指名してくれる人が少なかった。 オーディションや就職試験だったら書類審査で落っこちてるようなもの。 何とか面談する事になっても、人見知りが災いして顔が強張るし、上手く話せない。 焦れば焦るほど空回る。 見た目も普通で、愛想もよくない俺に高いお金を出す人なんていない。 2人きりになる前に、違う人に替えてくださいって言われたり、お客さんが契約をせずに帰ってしまったり。 時々契約してくれる人はいたけど、スケジュールが空いてるのが俺だっただけ。 そういう人のほとんどは体が目当てだった。 『俺』じゃなくて、『人体』なら誰でもいい人ばかり。 もちろんリピーターにもなってもらえる訳でも、チップをもらえる訳でもない。 ここでも俺は需要がなかった。 与えられた部屋で1人で過ごす事が増えた。 自分なりに笑顔の練習をしたり、会話が上達する本を読んで勉強したりしたけど、根本的に自信がないから効果は今ひとつ。 見かねたオーナーが、友達や知り合いが遊びにくる時に俺を呼んでくれるようになった。 きっと場数を踏ませて、慣れさせようとしてくれたんだと思う。 お酒を飲みながらおしゃべりをしたり、オーナーを含めた数人と淫らな夜を過ごしたり。 信頼してるオーナーが一緒にいてくれれば、不思議と知らない人の前でも怖くなかった。 不特定多数の人とエッチな事をするのも平気だった。 そこでおこづかいをもらって暮らす生活。 俺は何をやってるんだろう…。 アルバイトも辞めてしまったし、この生活をしていると日程的にオーディションも受けづらい。 もう田舎に帰って就職しようか…と考え始めた頃だった。 コーディネーターさんから面談予約が入ったと告げられた。 その相手が(とし)くんだった。 初めて俊くんを見た時、優しそうな素敵な人だと思った。 言葉づかいも丁寧だったし、身なりもきちんとしていた。 爽やか系イケメンの俊くんは、短い黒髪が似合っていた。 望んだら恋人なんてよりどりみどりな気がする。 どうして派遣恋人が必要なんだろう。 契約する気満々の態度にホッとする。 よかった、仕事がもらえそう。 何とか生きていけそう…。 俊くんは目が合うと、恥ずかしそうに目をそらしてしまう。 体が目的のお客さんは、いつも俺をいやらしい目でジロジロ見る感じだったから、どこか新鮮だった。 視線を感じて俊くんを見ると、また目をそらす。 俊くんは耳まで真っ赤だった。 そんな対応をされたのは初めてで、俺の方が恥ずかしくなってしまった。 2人きりになっても俊くんは優しかった。 上手く話せない俺をかばってくれたし、俺が可愛いってたくさん誉めてくれた。 俊くんと一緒に過ごしてみたい。 俊くんに契約してもらえたらいいな…って思ったから、9日間コースを契約してくれた時は嬉しかった。 しかも性的サービス付きのオプションと一緒に。 俺の事を知った上で求めてもらえた事に胸が熱くなった。 俊くんは俺とエッチな事をしたいって思ってるんだ…。 そう認識した途端、体が甘く疼いた。 俊くんの心も体も満たしてあげたい。 いい仕事をして、ずっと見離さずにいてくれたオーナーに恩返しもしたい。 俺を契約してよかったと思ってもらえるよう、俊くんの望み通り精いっぱい尽くして、素敵な恋人になろう。 俺はそう心に決めて、この家にやってきた。 俊くんのこだわりで、体のお世話はさせてもらえなかったけど、まだ見込みはある。 エッチな雰囲気にさえ持ち込めれば、俺の実力を発揮できるはず。 オーナー仕込みのテクニックで、きっと俊くんを喜ばせてあげられるはず。 よし、また明日から頑張ろう…! 俺はそう思いながら目を閉じた。

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