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第2話『9日間限定の恋人』(7)俊哉×凪彩

〜side.凪彩(なぎさ)〜 今日は日曜日。 雲一つない、いいお天気。 俺の心も、この空みたいに晴れ渡ってたらいいのにな…。 昨日の夜、ちょっといい雰囲気になったけど、(とし)くんとの関係は進展なし。 俺はそれにもどかしさを感じていた。 早くエッチな事をして俊くんに満足して欲しい。 俊くんが思い描いた恋人になりたい。 でも…今の俊くんはそれを望んでいない。 俺にできる事は、俊くんの気持ちに寄り添うだけ。 焦ったらだめ、少しずつ…少しずつ。 今朝のおはようのキスは俊くんから。 ずっと挨拶のキスは触れるだけだったのに、今朝はいつもより長かった。 何回か…じゃなくて、1回だけ。 唇を重ね続けるだけのあったかくて柔らかくて優しいキスだった。 午後は俊くんのリクエストで水族館デート。 仲良くイルカショーを見て、オヤツの時間にはストロベリー&カスタードクレープと、チョコバナナのクレープを半分こして食べた。 お客さんと来た事もあったけど、俊くんとのデートが一番楽しい。 デートの記念にお揃いのイルカのキーホルダーを買ってもらった。 俊くんは車の鍵に、俺はバッグにつけた。 手を繋いで海の近くを散歩している時だった。 向こうから泣きながら歩いてくる幼稚園児くらいの男の子。 周りを見たけど、親らしい人は見当たらない。 もしかして、迷子かな…。 どうしよう、何とかしてあげないと。 でも、すごく泣いてるし、子供の扱いに慣れてない俺が声を掛けたら怖がられてしまうかも…。 そう思って尻込みしていたら、ちょっと待っててくれ…と告げて、真っ先にその子へ駆け寄っていった俊くん。 男の子の側にしゃがむと、笑顔で何か話しかけていた。 誰よりも優しくて、誰よりも勇気がある人。 男の子を安心させるように笑いかける横顔に胸がキュンとなった。 迷子センターへ向かう途中で親御さんが見つかったからもう大丈夫。 俺たちにバイバイをしてくれる小さな手が可愛かった。 「よかったな」 「うん…。俊くんカッコよかったよ。ヒーローみたいだった」 そう誉めると、俊くんは照れ臭そうに笑った。 晩ご飯は夜景の見えるシーフードレストランで。 俊くんがオーダーしてくれた俺の大好きなシーフードピザ。 嬉しいけど、毎日こんなに贅沢させてもらっていいのかな…。 本当は俺が俊くんを喜ばせなくちゃいけないのに、俺が喜ぶ事ばかり。 契約代金だけでも高額だったから、それに見合う働きをしなくちゃいけないのに…。 「凪彩のプロフィールにシーフードピザが好きだって書いてあったから…。独り占めしていいからな」 わざわざサービス提供者の俺の事を気にかけてくれるなんて優しい人。 お客さんの俊くんはそんな事しなくていいのに。 ピザは1人でも食べ切れるサイズだったけど、俊くんにも食べてもらたいと思った。 一緒に食べた方が絶対に美味しい。 いつもみたいに仲良く半分こして、美味しいねって言いたいと思った。 「ごちそうさまでした、俊くん」 「あぁ、美味かったな」 楽しい食事を終えてお店を出た。 もう夜も遅いから、海風が冷たくて肌寒い。 「ねぇ、俊くん」 「ん?どうした凪彩」 一歩近づいて背伸びをする。 俊くんの唇にチュッとキスをした。 「凪彩…?」 「ごちそうさまと、ありがとうのキス」 今のは挨拶のキスだからOKだよね…?と聞くと、俊くんの瞳が潤んだ気がした。 あれ…?と思っていると、そのままぎゅうっと抱きしめられた。 俊くんの…腕の中だ…。 俺、今…抱きしめてもらってる…。 いいにおいもするし、あったかくて…幸せ…。 「凪彩…」 「なぁに、俊くん」 「俺からも…ありがとうのキス…していいか?」 「うん…」 そっと目を閉じて俊くんのキスを待つ。 少し間があって触れた俊くんの唇。 外が寒い分、朝よりも温かく感じた。 1回だけかな…と思っていたら、また唇が重なった。 挨拶のキスとは全然違う恋人にするような甘いキス。 俺を抱きしめる腕に力がこもる。 俊くんに求められてるのが嬉しくて、俺からもぎゅっと抱きついた。 もっとして欲しくて、俺からもキスをせがんだ。 「いいのか、凪彩…」 「うん…もっとしたい…」 俺たちは食事を終えた他のお客さんが出てくるまで、何度も何度も唇を重ね続けた…。

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