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第2話『9日間限定の恋人』(9)俊哉×凪彩
〜side.俊哉 〜
あっという間に火曜日。
今日は有休を取った。
昨日泣き疲れたのか、凪彩 はまだ眠ったままだ。
見る度に可愛さが増していく凪彩の顔には慣れないが、生活は少しずつ落ち着いてきた。
最初はお互い緊張の連続だったし、凪彩も俺好みの可愛い恋人を頑張って演じてる感じがした。
そんな凪彩も少しずつ素を見せるようになってきたと思う。
俺はそれが嬉しい。
いくら仕事だからって、必要以上に自分を押し殺す必要はない。
俺は自然体の凪彩と暮らしたい。
本当の凪彩はきっと繊細で傷つきやすくて控えめな子だ。
淋しがりやで愛に飢えていて…愛されようと必死にもがいてるようにも見える。
もし、俺が愛する事を許してくれるなら、ずっと凪彩の側にいて全ての事から守ってやりたい。
凪彩が好きだ、愛してるって朝から晩まで伝えたい。
…そう、俺は凪彩に恋をした。
水族館デートの夜、背伸びをしてお礼のキスをしてくる凪彩がどうしようもなく愛おしくて泣きそうになった。
思わず抱きしめて何度も何度もキスをした。
その時に確信したんだ、凪彩への想いを…。
凪彩も嬉しそうに応えたから、このまま気持ちを伝えようと思ったが、酔った勢いで告白するのは嫌でグッと堪えた。
ベッドでも欲望を抑え込んだ。
告白する前に一線を越える勇気はなかった。
そんな状態で迎えた月曜日。
職場にいても凪彩が気になって仕事にならない。
離れれば離れるほど、凪彩への想いが募る。
やっぱり定例会なんか気にせず丸ごと有休を取ればよかった。
定時上がりで急いで帰った。
1秒でも早く凪彩に会いたかった。
耳掃除をキッカケに凪彩と触れ合って、気持ちを伝えようと思った。
もし凪彩が俺を受け入れてくれるなら、もっと凪彩に触れていいか聞こうと思った。
いい雰囲気になったのに、凪彩は俺の腕の中で『派遣恋人になってよかった』と言った。
俺はその一言で一気に現実に引き戻された。
そうだ、凪彩は『派遣恋人』
本物の恋人じゃない。
俺が凪彩を求めるのは恋愛感情。
凪彩が俺を求めるのは仕事の一つ。
この先、関係が進展してセックスする事になっても、根本的な意味合いが全然違う。
凪彩にどハマりしたらいけない。
契約期間が終わった後に辛くなる。
客に惚れられたと知ったら凪彩も困るはずだ。
頭ではわかっていても、もう引き返せない。
俺は凪彩が好きだ。
でも、凪彩は違う。
告白しても迷惑なだけだ。
それなら…想いを伝えず、残りの時間を楽しく過ごしたい。
最後まで凪彩のいい客でいようと心に決めた。
「ん…もう朝…?」
「おはよう、凪彩」
「おはよう、俊くん…。でも、もうちょっと…」
寝ぼけて甘えてくる凪彩が可愛い。
抱きしめてキスをしたい。
この寝顔を見るのは一生俺だけがいい。
昨日の決意があっさり揺らぎそうになった。
結局2人で二度寝して、目が覚めたら11時を過ぎていた。
凪彩が焼いたふわふわのパンケーキは甘くて優しくて何枚でも食べられると思った。
昼過ぎに散歩がてらスーパーへ向かう。
同棲中の恋人気分が味わいたくて、一緒に買い物と料理をする事にした。
凪彩の得意料理の餃子を食べてみたい。
もし、耳掃除みたいに形式的に書いたプロフィールでもかまわない。
『凪彩と一緒に』何かをしたかった。
凪彩は買い物に慣れているらしく、手際よく食材をカゴに入れた。
キッチンでもキャベツを刻んだり、タネをこねたり…と、なかなか手際がいい。
驚くほどの大量のキャベツ。
キャベツを山ほど入れるのが凪彩流らしい。
『キャベツは安くて日持ちもするし、栄養もあるから、貧乏暮らしの救世主。いつもお世話になってるから』と微笑む凪彩。
凪彩の普段の生活が垣間見えた気がして嬉しくなった。
俺と一緒に暮らしてくれるなら、生活費の心配をせず肉が買えるよう張り切って稼ぐのに。
凪彩が誰かの恋人を演じなくて済むのなら、どれだけでも働く。
でも、肉がたくさん入ったら凪彩の餃子じゃなくなる気もするし、ガンガン働いて帰りが遅くなったら凪彩は淋しがるかも知れない。
そんな妄想、無意味なのにタネを包む凪彩の横顔を見ていると、次から次へとそんな事を思ってしまう。
何をやってるんだ、俺は…。
自分にツッコミを入れながら餃子を作り続けた。
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