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第2話『9日間限定の恋人』(10)俊哉×凪彩

〜side.凪彩(なぎさ)(とし)くんと手を繋いで近所のスーパーへ買い物に行った。 ちょっと遠回りしてイチョウ並木や、川沿いの遊歩道を通った。 お店のプロフィールに散歩が好きって書いたから、俊くんが景色のいいルートを選んでくれたんだと思う。 買い物が楽しくて、ついつい買い過ぎてしまったから、帰り道は最短ルート。 違う道だと見える景色が違ったし、俊くんの住んでいる町のほのぼのとした空気感が心地よかった。 一緒に餃子作りができたのも楽しかった。 手作りが初めての俊くんは、最初は苦戦してたけど、手先が器用だからすぐにコツをつかんだ。 残った分は冷凍すればいいね…と、多めに作ったはずなのに、美味しくてペロリと平らげてしまった。 俊くんと一緒だと、節約メニューのキャベツ増し増し餃子も美味しいって思えた。 交代でお風呂に入ってソファーでまったりタイム。 湯冷めするからって、俊くんが用意してくれた大きめのもふもふブランケット。 肩が触れ合うくらいくっついて2人一緒にくるまる。 「俊くん…聞いていい?」 「ん、どうした?」 「…俊くんは…どうして派遣恋人を契約したの?」 普段だったら、お客さんの事はあれこれ詮索しないけど、俊くんの事は聞いてみたかった。 俊くんの事を知りたいと思った。 「それは…凪彩が可愛かったから…」 「ううん、それ以前の話。俊くんみたいにカッコよくて優しい素敵な人が、どうして派遣恋人に興味を持ったのかなぁって」 一瞬、俊くんの顔が曇ったから、慌てて『やっぱりいい。ごめんね』と伝えた。 他人の俺が触れていい話題じゃなかった。 軽々しく聞くんじゃなかった。 大丈夫だ…と、俺の髪を撫でた俊くん。 少しの間の後、3年前婚約者にフラれて、それから恋をしていないと教えてくれた。 自分の何がいけなかったかわからないままだから、そんな状態で新しい人と付き合い始めても、相手の人に悪いって。 俊くんの切ない表情に胸がギュッとなった。 もしかしたら、俊くんはまだその人の事が好きなのかも知れない。 3年前から俊くんの時間は止まったままなのかも知れない。 そう思ったら、もっと胸が苦しくなった。 「昔の事だし、凪彩が心を痛めなくてもいいからな」 「う、うん…」 「本当に気にしなくていい。凪彩に話して少し気が楽になった」 ありがとな…と、また頭を撫でられる。 いつもとは違う無理した笑顔。 俺はそっと俊くんの胸に触れた。 手当てをするように、手のひらを添えた。 「俊くんの心の痛みが少しでも楽になりますように…」 俺に魔法が使えたら、俊くんの辛さを和らげてあげられるのに。 もっと話し上手だったら、俊くんの心を癒すような言葉をかけてあげられるのに…。 「凪彩は…優しいな」 そう言った俊くんもゆっくり俺の胸に手を当てた。 触れられるなんて思ってなかったから驚いたけど、拒んでると勘違いされたくなくて、普段通り振る舞った。 表情は隠せても、鼓動まではコントロールできない。 俊くんの手は温かくて大きいから、心臓のドキドキが伝わってるかも知れない。 「こうしたら…凪彩が今まで感じてきた心の痛みも…少しは軽くなるか?」  「…うん…なるよ。俊くん、ありがとう」 最近は幸せな思い出より辛い思い出の方が多いから、すぐに全部癒される事はないけど、俊くんの気持ちが嬉しかった。 優しいのは俺じゃなくて俊くんの方。 俊くんには幸せになって欲しい。 俺みたいな期間限定の相手じゃなく、一生添い遂げてくれる素敵な恋人を見つけて欲しい。 「凪彩…」 いいか…?と、俊くんの指が俺の唇に触れた。 「うん…」 うなずいて目を閉じる。 ドキドキしながら待っていると、唇に感じる柔らかな感触。 俊くんとのキスはこんなにも幸せな気持ちにしてくれる。 俊くんも幸せ…かな…。 「もう1回して…俊くん」 おねだりすると、すぐに重ねられた唇。 俺が…俊くんの恋人でいられるのは、あと5日間。

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