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デュークの事情
「失礼します」
ゲスター様の朝食を手にし部屋へと入り、テーブルに朝食を並べていく。朝食の準備が終わる頃、ゲスター様は朝の支度を終えテーブルに置かれた朝食を目にしため息を吐く。
「今日も相変わらず貧相な食事だな……」
「はい。しかし、それも後数日の辛抱かと……。ゲスター様。ココが薬を準備したとの事です」
私の言葉を聞き、ゲスター様の曇った表情が一気に明るくなる。
「そうか。思ったよりも早く紛い物の準備ができたようだな。ようやく叔父上との感動のご対面という事か……。だが、それが叔父上の最後になるとは思いもしないだろうなぁ……。主人である叔父上の命をその手で断つ事になるとは……従者としてこれほど幸せなことはないな」
「本当ですね」
笑みを溢しながらゲスター様は、あと何度食べられるか分からない食事に手をつける。
「ゲスター様、もう一つご報告があるのですが……」
「ん? どうした?」
「ココの従者となったリアムですが、その者もレノー様に会いたいと申しておりまして……」
「あぁ、あいつか……。お前が言っていたココの生意気な従者か……」
「はい。最初は断ろうかと思ったのですが、ココがレノー様に毒を盛る証人の一人になってもらおうかと思い、面会の同席を許可したのですがよろしいでしょうか?」
ゲスター様は少し考え、口角を上げ小さく頷く。
「主人であるココが叔父上を殺してしまう姿を見た時、どんな表情を見せてくれるのか……面白そうじゃないか」
余興が一つ増えたとゲスター様は笑みを深め、私は自分の思い通りに事が進んでいきゲスター様の前でなければ高笑いしているところだ。
ゲスター様の思いつきで始まったレノー様の遺産を手に入れる為の計画もようやく終わろうとしている。
最初はゲスター様の提案にはあまり乗り気ではなかったし、はっきり言って成功するなど思ってもいなかった。
レノー様は元々偏屈な方だった。
奥様が亡くなられた後も、後妻は迎えずに独り身のまま過ごされている。公爵家の当主だった時代は、冷徹な性格に相まった無表情で冷めた顔で常に周りを寄せ付けない雰囲気を出していた。
そんなレノー様だが頭は切れ、政治手腕を買われ王家とも繋がりがあり周りからは一目置かれる存在だった。
歳を取り隠居してからは、王都より離れた田舎で暮らすようになり家族はもちろん誰もレノー様に近づく者はいなかったと聞く……。
そんな独り身で寂しい思いをしているであろうレノー様へと近づき、親族としての優しさを見せれば遺産の分配金額を増やしてもらえるだろうと思っていたのだが……いざ近づいてみればレノー様は奴隷の従者を傍に置き、目に入れても痛くない程に可愛がっていた。
私がいくら奉仕をしても何もかもが私よりも劣る奴隷従者を選び、それだけでなく私の方を不要だと言い放ち……私のプライドは幾度となく傷つけられる。
極め付けが嫌がらせのように残していた遺言書だ……。
何もかもが思い通りにいかず、私とゲスター様は決断する。
レノー様にはココの手によって死を迎えてもらうことを……。
ゲスター様の朝食も終わり片付けを済ませた私はレノー様の部屋へと赴く。
扉を開ければ病人独特の香りが漂い一人寂しくベッドへと横たわる老人へと目を向ける。
以前のような威厳もなく痩せこけ横たわるレノー様を見ながら、いつものように……いや、最後の世話を始める。
「レノー様……もうすぐ終わりが近づいてきていますよ。ほら、この毒を飲んで貴方は最後を迎えるんですよ」
目を薄らと開け意識があるかないかの状態のレノー様に毒薬を見せるが反応はない。
小瓶に入った無色透明の水溶液は『ユリネ』と呼ばれる猛毒を持つ植物を乾燥させ粉末状にした物を水に溶かしたものだ。原液は少し甘い香りがするが水に薄めれば匂いは消える。
この毒を水に混ぜココがレノー様に飲ませれば……私達の目的は果たされるのだ……。
「しばらくすれば貴方の愛するココがやってきますよ……。そして、貴方にこの毒を飲ませるのはココです」
ココの名前を出せば反応のなかったレノー様がピクリと指先を動かし、虚な瞳は私を捉える。
「ハハ……。貴方が大切にしていた人や物は全てゲスター様のものになるんですよ。私達を拒絶したのが悪いんです……。全ては貴方が蒔いた種だ……」
レノー様の最後……そして、絶望するココとリアムの顔を思い浮かべれば笑いが堪えきれずに喉を鳴らし笑ってしまう。
もうすぐだ……
もうすぐ全てがゲスター様のものになるのだ……。
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