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お兄さんとレノー様を助けに行きます! ②
ゲスター様の朝食が終わり片付けを済ませ終わるとデュークさんから呼ばれ、リアムさんと共にレノー様がいる部屋へと向かう。
数ヶ月ぶり会えるレノー様に、僕の鼓動は早くなる。
手に持っていた万能薬の小瓶をギュッと握りしめ部屋の扉を開けると、部屋にはゲスター様とベッドに横たわるレノー様の姿が……。
「………レノー様」
レノー様に近寄り声をかけると薄らと目が開く。僕の名前を呼んでいるのか、僅かに唇を動かしてくれるのだが声は聞こえない。
レノー様の弱り果てた姿に心臓が握り潰されそうになるが、レノー様を安心させる為にも必死に笑顔を作る。
「レノー様……。会いに来るのが遅くなってしまい申し訳ありません。レノー様の病気を治す為の薬が用意できましたよ……。これを飲めばすぐに元気になりますからね」
すっかり細くなってしまった手を優しく握れば、レノー様も少しだが握り返してくれる。
目頭が熱くなるが唇をグッと噛み締めて涙が溢れるのを堪えていると、リアムさんの大きな手が僕とレノー様の手を包み込む。
「レノー様……初めまして。ココの世話になっているリアムです。本当はちゃんと挨拶がしたかったのですが、まずは元気になってもらうのが先ですね……。ココ、薬を早く飲んでもらおう」
リアムさんの言葉にコクンと頷き、ゲスター様の方へと向かい万能薬の入った小瓶を手渡す。
「ゲスター様。森の主である一角獣のツノから作った万能薬です。これをレノー様に……」
「そうか……。よく準備できたな。薬は……お前が叔父上に飲ませなさい。その方が叔父上も喜ぶだろう」
「僕が飲ませてもいいんですか?」
「あぁ。叔父上を助けてやってくれ」
微笑みながらそう言ってくれるゲスター様の優しさに感謝し何度も何度も頭を下げレノー様のところに急いで戻れば、デュークさんがコップに入った水を僕に手渡してくれる。
「さぁココ。早くレノー様を救ってあげなさい」
「はい! ありがとうございます、デュークさん」
レノー様の体を起こし薬が飲みやすい体制を整え万能薬の入った小瓶の蓋を開けて準備をする。
もうすぐ……もうすぐレノー様が元気になるんだ……。
「さぁレノー様。薬を飲む前に少し口を潤しましょうね……」
水を含ませようとレノー様の口にコップを近づけた時……
リアムさんの手によって止められる。
「……え? ど、どうしたんですかリアムさん……?」
「いやぁ……やけに懐かしい匂いがするなと思ったが……まさかこんな物をレノー様に飲ませようとするとはな……」
訳の分からない事を言うリアムさんを見上げると、いつになく怒りに満ちた表情を浮かべていた。
リアムさんは僕からコップを奪い取るとデュークさんに突き返す。
「なぁ、この水を飲んでみてくれよ」
「な、何で私が飲まなくてはいけない!」
「あんた達が用意した水だろ? 別に飲むくらいどうって事ないだろ?」
「貴様……無礼だぞ!」
「無礼も何も……人を殺そうとしてる奴にそんな事言われてもなぁ……」
「———なっっ!?」
リアムさんの言葉にデュークさんの顔を青ざめる。
「この水……毒が入ってるだろ? 僅かだがユリネの甘い香りがする」
「何をバカな事を……。言いがかりも甚だしい!」
デュークさんはリアムさんから突きつけられたコップを払い除けようとするが、手首を掴まれ苦痛の表情を浮かべる。
「そこまで言うなら飲んでみてくれよ執事長様……。飲んで何もなけりゃ俺の首を跳ねたっていいぜ? こんな卑劣な事するって事は……あんたも命かけてやってんだろ?」
掴んだ手首を持ち上げられデュークさんの体が宙に浮く……。デュークさんは小さく体を震わせ泣きそうな顔をして視線をゲスター様へと向ける。
「ゲ、ゲスター様! お助け下さい!」
「なっ!? 私は関係ないぞ! デュークが勝手にやった事だ! 全てはコイツが仕組んだ事だからな!」
「そんなっっ! 私はゲスター様の願いを叶える為に毒も準備したんですよ! 私はゲスター様の命令でやっただけだ!」
ゲスター様は自分は関係ないと怒りを露わにし、デュークさんはゲスター様から裏切られたと泣き始める。
そんな二人のやり取りを目の当たりにした僕は、状況が飲み込めずレノー様の手をギュッと握りしめリアムさんを見つめる。
「リアムさん……」
「ココ、大丈夫だ。水なら俺が出すから、ココはレノー様に薬を飲ませてやってくれ」
さっきまでの険しい表情から一変してリアムさんは僕にいつもの優しい笑顔を向けてくれる。
両手が塞がっているからとデュークさんをゲスター様の方へと放り投げると、リアムさんは新しいコップに水を注いでくれる。
コップを受け取り、レノー様の口に運び水を飲んだ事を確認してから万能薬をレノー様の口に入れ飲んでもらう。
喉仏が上下し薬が飲み込めた事に少し安堵する。あとは、効果が出てくれれば……。そう思いながらレノー様の様子を見ていると、僕の手を握り返す力が少し強くなり閉じていた瞼がゆっくりと持ち上がる……。
「…………ココ」
「———っ!! レノーさまぁ……」
水晶玉のようにキラキラした瞳と目が合い、少し掠れた声だが僕の名前をハッキリと呼んでくれた……。
あまりの嬉しさに両手でレノー様の手を握りしめると、レノー様の口元が綻ぶ。
「……そんなバカな。本当に万能薬を準備したのか……?」
僕の背後から聞こえてくるゲスター様の嘆くような声が聞こえてくるが、振り返る気にもなれずレノー様の手を握りしめ続けているとレノー様がゆっくりと口を開く。
「………ゲスター、デューク。お前達が私の枕元で話してくれたこと……全て覚えているからな……」
「「ヒッッッ………」」
酷く冷えたレノー様の声と視線にゲスター様とデュークさんは声を震わせる。
「ハハッ。さすがココのご主人様だな……。復活して直ぐにこの調子なら安心だな」
リアムさんだけが面白そうに声を上げ僕の隣に来ると再度レノー様に挨拶をする。
「レノー様。リアムです。どうぞよろしくお願いします」
「………ココが世話になったようだな」
「いえ、俺の方がココの世話になっているんですよ」
「そうか……。本当ならば私の手でそこの二人の処分を下したいところだが、生憎この体では不自由な事が多くてな……。もう少しだけリアム殿の力を借りてもいいかな?」
「そんなのお安い御用ですよレノー様」
初めて会ったばかりなのに息がピッタリな二人は口角を上げて笑みを深める。
色々な事が同時に起こりすぎて混乱してしまったけれど……久しぶりに見るレノー様の元気な笑顔に僕はホッと胸を撫で下ろしたのだった。
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