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第8話

「結果から言って良いかな?」 「はい」  診察室で医師と向き合いながら、律は緊張した面持ちで返事をする。  返答が返ってくるほんの数秒の間ですら、罪状を言い渡されるのを待つ囚人にでもなった気分だった。 「君は、オメガだね」  ピシャーンっと、雷が落ちたような衝撃が律を襲う。 「データベース上では確かにベータだったけど、検査の結果はオメガになっている。突然変異の後天性オメガっていうやつだね」 「そんな……」  突然変異なんて初めて見たよと、紹介してもらった医者は律のカルテを興味深そうに見入っている。 「伊織先輩がこんな時間に急に呼びつけるから、余程のことだとは思ってたけど」  紫藤の後輩に当たるらしいまだ年の若そうな医者は、カルテと検査結果を見比べながらあーでもない、こーでもないと何やら考え込んでいた。  改めて面と向かってオメガだと断言されてしまった律も、何故こんな事態になってしまったのかと頭を悩ませる。  いくら頭を悩ませたところで辿り着くのは、専門知識も持たない一般人が考えても何も分からない――それが答えだった。 「続いていたっていう体調不良は、君の身体がベータからオメガに変異を始めていたからだったんだろうね」  大変だったねと労ってくれた言葉が優しくて身に染みる。久しぶりに人の優しさに触れたせいか、鼻の奥がツーンとして目頭が熱くなってしまった。 「落ち着くまでゆっくりすると良いよ。診療時間外だし、誰も来ないからさ」 「ありがとう、ございます」  時計の針はもう九時を過ぎている。  ここに連れてこられて早々に色々な検査に回されて、慌ただしく時間が過ぎた筈なのに……今日はやたらと時間の流れが遅く感じてしまう。 「音無くん、君のご家族の中にオメガって居たりする?」 「はい、従兄弟に一人」 「そっか……じゃあ、その可能性もあるのか」  親族にオメガがいる家系は、オメガが生まれやすい血筋の可能性があるらしい。  とは言うものの、律の家系にオメガは従兄弟一人だけだ。父の双子の弟の息子で、同い年。背格好も顔立ちも良く似ていたため、二人で並んでいると双子みたいだと言われたことはある。  最近連絡を取っていないが、元気にしているだろうか気になるところだ。落ち着いたら、たまには連絡でも取ってみよう。 「いきなりで不安なことだらけだと思うけどさ。こちらも出来る限りサポートに回るから安心してよ」  にこりと笑って律を落ち着かせようとしてくれる。この先生は、何処かの保健医とは違って信頼に足る人物だと思う。 「結果は出たのか、黒川?」 「先輩、音もなく急に入って来ないでくださいよ」  噂をすれば何とやら。口にこそ出してはいなかったが、いつの間に入って来たのか、医者――黒川の背後には紫藤が立っていた。 「しかもそっちから……」 「別に誰も居ないんだから構わないだろう?」 「本当に、変わらないですね伊織先輩」  どうやら医療関係者が出入りする通用路から入って来たらしい。黒川が咎めないところを見ると、医者という肩書は本物なのだろう。  こんな胡散臭い笑顔を貼り付けた医者、絶対に掛かりたくないと律は内心毒づく。 「それで?」  そんなことは良いからと急かすように、紫藤は黒川に検査結果の報告を促した。 「彼は突然変異のオメガで間違い無いですよ」 「……そうか」  自分で聞いた割に、結果を聞いた後の紫藤は素っ気ない返事を返すだけだった。  黒川からカルテと検査結果を奪い取ると、珍しく真面目な表情でその紙の文字に目を走らせていた。 「あ、の」 「何だい?」 「僕は、これからどうすれば良いんでしょう?」  突然変異だオメガだ言われても、この先どうして良いのか分からない。  普通に生活は出来るのか? 大学には通えるのか? そう言った不安が一気に押し寄せて来てしまう。 「そうだね……これか色々と書類や手続きが必要にはなると思うけど、大丈夫。少し生活の様式が変わるだで、普通に生活出来るさ!」

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