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episode.1

目が覚めると、そこは古いアパートの敷地内やった。 空から乱暴に振り落とされた為に、地べたやなく人様の家のベランダに降り立ったらしい。 暗くて不気味な夜の住宅街をぐるりと見渡し、近くで首でも括り付けとるイケメンはおらんかと探してみたが そう上手くもいかへんようや。 渋々コンクリートの上に寝そべり日が昇るのを待ってみるが、待てど暮らせど朝が来ん。 いつもやったらほんの少しぼーっとしとると 昼くらいになっとるのに。 硬い石の上で横になっとるせいで身体も痛い。 部屋ん中入れへんかな。 試しに窓に爪を引っ掻けてみる。 「…お、空いとぉやん。ラッキーラッキー。」 音を立てないよう、自分が通れるギリギリの幅を開けた。 一応寝とる奴の顔だけは見ておこう。 女やったらセクハラ呼ばわりやし、男でもマッチョなんかで暴れられたらかなん。 何より女やゴリラは俺のタイプやない。 真っ暗闇の中恐る恐る寝顔を覗き込めば… 意外にも、シュッとしとるええ男やった。 まだ少し幼さの残る顔立ちしとるから 中学…いや、高校生やろか? そいやさっき公園で美味しくいただいた子も 学生なのか可愛らしい顔つきしとったなぁ…。 すーっと鼻筋を爪でなぞっても、 男の子はピクリとも動かんかった。 髪の毛を引っ張ってみても、 頬をつめぎっても全く動かない。 まるで死人のように固まって眠る男に ゾクゾクと這い上がる何かを感じた。 “下界でも、こちら側とルールは変わらない” ふと、おっちゃんに言われた言葉が過る。 ルールは簡単に纏めると ①おっちゃんのご機嫌取りをする ②死人で遊んだらあかん こんなもん。 おっちゃんや紅薔薇が言うには俺は②に反しとるらしいが、その自覚はこれっぽっちも無い。 遊んどるわけやない、本能のままに動いとるだけや。 ただ、それでも反しとる言うならば。 この死んだように寝とる人間相手なら、なぁんも問題ないやんな? この男に特別な感情を抱いたわけでもないし、好きも嫌いも興味もない。 ただ自分の欲求が満たされる事だけを考えて 首まで被った布団をべりっと捲らしてもろた。 勿論男に動きはない。 ただ、そこで俺は見つけてしもた。 この男、死相が出とる。 まだ濃くはないから死亡日の特定までは出来ひんけど。 ほんっとあの死神のおっちゃんやりよるわぁ…。 最高の場所に落としてくれたやん。 この男の死に際、是非見届けてやりたいわぁ。 無意識に口角が上がるんは仕方ない。 「にしてもえぇ身体しとんなぁ…。」 硬い腹、柔らかい尻、触れてみたらどれもこれも俺の好みで驚いた。 あぁ、ホンマにはよ死んでくれたらええのに。

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