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episode.4
遅刻すると騒いで家を飛び出していったスミレの手には、俺が引っ掻いてしまった傷がある。
生きた人間にどれだけの効果を発揮してしまうのかは俺もよぉわからへんけど
そこそこしんどくはなるんやと思う。
この爪は毒の爪。
何でこんな物騒なもんがひっついとんのか知らんけど
首に一刺しすると、同族でも致死率は高いらしい。
ほんの一瞬掠っただけではあるにしろ、
相手は俺らとは違う、“人間”や。
これで勝手に死なれたらルールその③に反してしまう。
あぁ、③ってのは簡単に言うと人の寿命をいじくったらあかんってやつ。
家を出る時スミレの死相はまだ薄かったから
大丈夫やと思う…けど、
それが俺の見てない間に急激に濃くなるもんなのか
無事家まで帰りつくのかはわからん。
…面倒臭すぎるやろ。
爪刺したんが俺以外やったら死ぬのを楽しみにしとったっちゅーのに。
ただでさえルール破って死神のおっちゃん怒らせてここに飛ばされたんやから
もし人の死期をずらしたなんて事があったら俺の身体がどうなるかわからん。
しゃーない
今回は完全に俺のミスや。
スミレの高校、少し覗きに行こか。
ま、その前にここ片してからやなぁ…。
部屋に散らばったスミレの服。
食べかけのパンケーキに、皿の上で固まったマーガリン。
流しに溜まった食器。
所謂汚部屋というもんは何度か立ち入った事があるが
死体の臭いと食べ物や何かの腐った臭いが混じって鼻がもげそうになる。
この家はそれ程やないけどこのまんま放っとくと
同じ状態になりかねん。
そもそも、シンプルに汚い所嫌いやねん。
俺の家にもなるんなら、もぉ少し美しくあってもらわんと。
散らかった着替え、水回り、棚の上に積もった埃。
気にしだすときりがなくて、ようやくひと段落ついた頃には昼を過ぎていた。
昼飯でも買いながら覗いてくるか…そう思って立ち上がったその時。
〜♪
固定電話のコール音が静かな家に響く。
俺以外…というか、普段やったら恐らく誰もいないこの時間に電話なんて…何の用やろうか。
セールスか営業電話やったらどうせ暇やし暫く話に付き合ってやってもええかな~。
そんな軽い気持ちで受話器を取って
今朝のノートに書かれていた文字列を思い出す。
えーっと、確かスミレの苗字はっと…。
「はぁい篠原です。」
「もしもし、私○○高等学校の~~です!
先程スミレ君が急に失神してしまって~~……!」
きゃんきゃん声がやかましくて、あんまり聞く気にはなれんかった。
ただ、一つだけ確信した事。
スミレの身体に朝の毒が回っとる。
「すぐ向かいますからその辺で寝かせてやっとってください。」
あー、やらかした。
人間がここまで弱い生き物やと思わんかったわ。
俺のしでかしたこととはいえ
半日で死にかけるなんて体力がないにも程があるやろ。
今日一日くらい元気に学校行って帰ってこいや、ほんまに。
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