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episode.7
朝、スミレの全身を纏う黒い影に堪らず震えた。
昨日までは薄かったそれが今日はこんなにはっきり。
恐らく24時間以内に何かが起こる。
昨日まで普通だったのに、なんで急に…?
念の為確認したけど
スミレは何も予定ないらしいしなぁ。
何が起こるんやろか。
災害?強盗が入る?
まぁ何にせよ、俺はスミレの死に際を拝みたくて居座っとるんやし。
いつどうやって死のうが俺にとって喜びの瞬間である事に間違いはない。
大丈夫や。
ちゃんと美味しくいただいてやるからな。
なんて
頭ではそう思っているのに。
どうして胸が締め付けられるんやろうか。
違和感を覚えながら家事をこなした。
たまに周りの様子やなんかも見てみたけど、アパートの中も外も平和そのもの。
何かしらの災害が起こるんなら
他の人間にも死相が見えてええと思う。
でもそれもない。
そもそもこのアパートの周辺に、現在死の気配はない。
スミレ以外。
昼になってもリビングでスマホを触ったり居眠りしたり、たまにノートを開いて課題を進めているスミレを眺めるが、どうしても今日死ぬとは到底思えん。
そんな事を思いながら、俺も少し油断していたんや。
だから──
「…どこ行ったねん。」
水音に隠れ、スミレが居なくなっていた事に気が付かんかった。
着とった服は脱ぎ捨てられて漫画の本も置きっぱなし。
無くなっているのはスマホ、財布
それから開いては閉じてを繰り返しとった課題。
どっか行くなら教えろ言うたのに…。
俺のおらん所で何かあったらどうすんねん、アホ。
すぐに家を出て駐輪場を見渡した。
スミレの自転車は変わらずそこに置いてある。
と言う事は徒歩や。
恐らく電車かバス。
一か八か
俺はまっすぐ駅に走った。
理由はただ一つ。
動かないスミレの身体を貰うため。
最寄りの駅に辿り着くと、ちょうど俺と同じタイミングでバスも到着した。
見覚えのある姿にほっと息をつく。
だが、それも束の間で。
スミレの死相が更に濃く出ている事にぎょっとした。
こんなん、もうすぐ死ぬで…。
バスの暴走?通り魔?
色んな考えを巡らせたけどどれも違う。
スミレほど濃い死相の出ている奴なんておらん。
今ここで死ぬとしたらスミレ一人…。
ということはもしかして…
自殺?
あのスミレが?
どうして。
だがまぁ、自殺するんやったら綺麗に死んでもらわなこっちも困るわけで。
間違っても列車に突進なんてされてまったら、挿れる穴どころかスミレが砕けてなくなってしまう。
しゃーない
俺は改札へ向かって歩くスミレの後を追う事にした。
遠くでベルが鳴る。
電車の出発を知らせる合図やった。
皆の足が早まる。
同時にスミレもホームに繋がる階段を駆け上がる。
スミレを見失わまいとスピードを上げた瞬間、突然その時は訪れた。
「わあぁぁぁ!」
構内に響く叫び声。
声を発した人物は真っ逆さまに落ちてくる。
人というのは面白いもので、自分が急いでいる時に例え階段から転げ落ちそうになる奴がおっても誰一人庇おうとせん。
自分の事ばっかりや。
すぐ後ろを走る者は皆左右に逸れて、階段下までの道筋を作る。
だがその光景を見物していた俺だけは逃げ損ねてしまい
男をつい、受け止めた。
「ぁ……かきつばたぁ…っ!」
「ほーら、言わんこっちゃない。」
全身に浮き出ていた死相は
再び薄くなっていた。
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