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episode.14

背丈も変わらん、体格なんてむしろ俺よりええのに、 スミレは俺の腕の中で何故かちーちゃくなっとった。 「…スミレ、だって怒っとるんやないの?」 正直、俺の頭は今クエスチョンマークでいっぱいや。 「別に怒ってねーよ…。ただその…なんだ、あんな事されてから…お前にどう接すればいいのか…わ、わかんな…っ。」 なんやモゴモゴ言っとってよー聞き取れん。 はっきり喋れやと思いつつ、 下を向いとるスミレの顎をクイと持ち上げてやった。 「…っ、えらいかわええ顔しとるやん。」 「うるせ…。」 久しぶりに目が合ったスミレは、瞳を揺らしながら真っ赤い顔して俺を睨む。 あー、あかんてスミレさん。 せやからそれ、誘っとるようにしか見えへんのやって。 「俺の事…嫌になったり、しねーかなって…。あ、あんな…ハズいことして…っ。」 「はぁー。」 「んだよっ!!」 俺はあまりに純粋なかわええ男を前にして、 大きなため息をつく事しか出来ひんかった。 「ほんま童貞の思考は健気やわぁ。」 俺が17やった時はどんな感じやったか、とか 思い出そうとしたが3秒でやめた。 昔すぎていちいち思い出しとれんわそんなん。 スミレは恥ずかしがっとんのか何なのか、 また下を向いてしまう。 そんな事したって、結局俺の腕ん中におるんやから そー変わらへんのやけど。 「…フェラしたからって俺がスミレの事嫌いになるわけないやん?」 「……い、言うなよ。」 「逆にこうやって避けられとった方が何倍も辛いし嫌やってんけど?」 「……それは…。」 「なぁスミレ?こっち見てや。」 スミレは下を向いたまま動かへん。 俺の着てる服のお腹の部分をきゅうっと握ったまんま。 まぁこれもこれで可愛らしいとは思うんやけどなぁ。 全然足りんよ。 スミレが足りん。 「みろや。」 びくんと身体を震わせ、俺の声に反応したスミレが やーっと顔を上げる。 不安そうに、眉を下げて。 普段のスミレからは想像もつかへんような 弱々しい表情やった。 少し怖がらせてしもたかな。 「…なぁスミレ?仲直りしよや。」 スミレは俺と違って限られた人生なんやからさ。 いつか来るスミレの最期の日まで、 たーくさんスミレの思い出を俺にちょーだい。 俺がなるべく優しく笑ってやると、 心なしかスミレの表情も柔らかくなった。 それが何とも言えん可愛さを纏ってて 思わず紅らむ頬に手を伸ばす。 目ん玉落ちるんやないかってくらいくるんと見開いたスミレの瞳には、 欲を露わにした人の形した魔物が映っとった。 つい、笑ってしまいそうになる。 生きとる人間相手に俺は何しとんねん。 触れる寸前まで近付いとった唇を少し離して 代わりに指先でトンとスミレの下唇を弾いた。 「…ココも、どうせした事ないんやろ?」 スミレは否定する事なく キッと俺に鋭い視線を向ける。 あーぁ。こりゃ図星の顔やなぁ。 そんな事を思いながらどこか安心しとる俺がおった。 ヤバいやろ。 いい大人がこんなガキンチョの “初めて”が欲しい、とか。 「……ちゃんと守っとってや。」 俺の中で覚悟がちゃーんと決まるまで…な。 せやからスミレ、それまでは生きとって。 伝える事はないであろう願いを抱え、 スミレの鼻の先に行き場をなくした唇を落とす。 それだけでもスミレは固まっとったけど これくらいの事でまた避けられたりしたらたまらんなぁ。 俺かてめちゃくちゃ溜まっとるのを フェラと鼻チューだけで抑えてやってんねやから。 「わ、かったから…。晩飯、作るから離せ…。」 「んふふ、パンケーキよろしく頼むわ。」 キッチンに立つスミレの背中を眺めつつ、 残っとった洗濯物を畳んだ。

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