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episode.16

課題を終えたスミレは結局風呂にも入らずに、 コキっと首を鳴らして布団に潜り込みよった。 「スーミレ?風呂入らな臭いで。」 「うっせ。力使い果たしたんだよ。」 「ええの?明日学校でスミレくんくさない?言われるで〜。」 「…30分早く起こせ。」 「はぁ…呼んでも起きひんかったらフェラして起こすで?」 「…。」 寝たんかい。 呼んだ事にしてしたるでホンマ。 もう少し構って欲しかった自分の欲を抑え、 仕方なくリビングの電気を消した。 ふと窓の外を見れば、お月さんが雲間から顔を覗かせる。 向こうの世界におった頃も、 夜の月は何故だかずっと見ていられた。 少し肌寒くはあるけれど、 たまにはベランダで黄昏れるんも悪くないかな。 朝起きてスミレが驚かんように、 虫がおらんか確認して窓を開けた。 ガラス越しではないそれは、やはり言葉では言い表せない程綺麗で、 柵に手をついたまま儚い光を浴びる。 すると、忘れかけていた臭いが鼻を掠めた。 すぐ近くで、死の臭い。 さっきまでスミレの顔を見とったけど、 相変わらず消えない死相はまだそこまで濃くもなく、 これがスミレのものでない事は確かや。 だとすると何処で…。 「久しぶりだな、杜若。 どうだ。この世界にも少しは慣れたか?」 姿は見えずとも聞き覚えのある声。 毎日のように行動を共にした薔薇の香りがふわりと漂う。 「紅薔薇か。なんや、仕事?」 その声は随分と懐かしく感じた。 紅薔薇と仕事をしとる頃は、そんな風に思う日が来るやなんて微塵も考えた事無かったなぁ。 不思議やわぁ。 「そうだ。お前の奇怪な行為が無いお陰で仕事が進む。」 奇怪な行為…なんて酷い事言ってくれる。 相変わらずやなぁ、この頭の硬さ。 「この匂いやしねぇ…近いな。隣の爺さん?」 「ほう。まだ死の臭いがわかるのか。」 「そらな。…死相もよーぉ見えるわぁ。」 それも、一番望まん奴のな。 俺の右側…事ある毎にドアを蹴りよったあの忌々しい爺さんの家から、薔薇の香りを纏う男が姿を現した。 紅薔薇は柵に腰掛けると、 眉尻を下げて嘲笑うかのように、俺を見下ろす。 「すぐ隣に餌があるというのに、食いつきには行かぬのか。」 ホンマにこいつ…。 俺そんな見境ないヤリチンと違いますけど? 「っふふ。だーれが爺さんと好んでヤるねん。」 つい笑ってしもたのは、こんな奴でもまた話せた事が嬉しいと何処かで思っとるからで。 「…少し前までの自分を思い出してみろ。」 「そんな昔の事しらーん。」 そして、スミレのお陰か知らんけど そう変われた自分が嬉しいと思うからや。 …知らんくないな。 確実に、スミレのお陰やな。 「今は、生きとる生意気なガキにゾッコンやねん。」 「そこで寝ている小僧の事か。もう手は出したのか?」 「出すわけないやん俺の事なんやと思ってん。」 紅薔薇は酷く驚いた顔をしとって、 以前の俺に今更呆れを覚えたのは言うまでも無い。

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