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episode.18

かきつばたは俺の言った通り 30分早く起こしてくれた。 それは感謝する。 俺一人だったら絶対無理な時間だったから。 風呂なんか諦めて睡眠を取っただろうから。 感謝したいのは山々だ けど、礼は言いたくねえ。 だっておかしいもん。 「おい!なんでお前は俺のパンツ脱がしてんだ!」 「呼んで起きひんかったらフェラするゆーたもぉん。 起きたん?はぁ…つまらん。」 「んな事言われた覚えねーぞ!」 「すぐ寝てまうスミレがあかんのやろ 俺ちゃんとゆーたもぉん!」 かきつばたは俺の腰を撫で回し、にこにこ笑っている。 こんな奴と一緒に住んでる自分が怖い。 別に学校に友達が居ないんじゃない。 むしろ多い方だ。 部活に入っていない分、同じく帰宅部の奴や部活が休みの奴からはよく遊びの誘いも受けるのだ。 なのにどうして、最近はそれを断ってまっすぐ家に帰り 常に写していた課題を自力でやるようになったのか。 周りに驚かれるけど実際一番わかんねえのは俺だ。 家で過ごす時間が好きではなかった。 どうせ一人ぼっちの家。 親父が帰るのはまだ先で たまに片付けてもらう為だけに連れを呼んで、そういう時だけがこの家にいて楽しいと思える時間だったのに。 今は一人じゃない。 いつだって、この煩い奴が世話を焼いてくる。 家で過ごすかきつばたとの時間。 そんな非日常の生活を楽しみに、連れの誘いを断るなんて 少し前の自分とはまるで違うから不思議だ。 「ほらスミレ。起きたんならさっさと風呂行き? シャワーでもええけど一応お湯張っといてやったで?」 「…ん~、さんきゅ。」 そして多分、こいつと生活していると俺はダメ人間になる。 例えば今かきつばたが消えれば 俺はまともに生きられないだろう。 親が家を空けてから慣れるまで、かなり時間がかかったというのに。 かきつばたが家に来てからの生活にはあっという間に馴染んでしまった。 人ってダメになるのは簡単なんだ。 風呂に入れば、少なかったシャンプーは補充されていて カビ1つ無い新居並の綺麗さ。 お湯は温かくて気持ち良い。 こんな奴と居たら俺結婚出来ない。 自分は何もしないくせに嫁に文句ばっかつけるクソオヤジになる気しかしねえ。 そうなったらどう責任取ってくれんだよアイツ。 ふと、スーツを着た俺をかきつばたがエプロン着けて玄関まで迎えに来る姿を想像して吹いた。 やめろ、ちげえ。 それはちげえよ。 ちげえ…のかな? ずっとなあなあにして来た事がある。 かきつばたって本当は何者なんだって事。 染めていると思っていた白銀の髪は 少しくらいプリンになったって良い頃なのに そうならないなら地毛だろう。 瞳の色、爪の色も少しおかしい。 お洒落だとしても、わざわざ俺の前で繕う必要あるのか? ねえだろ。 俺を見てみろ。 万年ジャージ、髪の毛なんて乾かした事もない天然素材だ。 見ない振りで突き通していた理由は 出会いが出会いだけに、どうせすぐ何処かへ行くと思っていたからで そうでなくともすぐに追い出してやろうと思っていたからだ。 まさか一緒に居続けるなんて想像もしていなかったし、この先も一緒に…とミクロでも思っちまった俺は 今更アイツを知らなすぎるって気付いたんだ。

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