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episode.20

薄々感じていたこの気持ち。 誤魔化していた、恋とは言えない汚れた感情。 気づいてしまえば少しだけ楽になった。 自覚する事で、かきつばたを拒否出来ない理由がつけられる。 だけど俺はお前を知らない。 お前がいつ、どんなきっかけで居なくなるかも 何もわからない。 そんなの苦しい。 「…なあ、かきつばた。」 「ん~?」 「お前が急にいなくなったら、うちにあるホットケーキミックス全部無駄になんだからな。」 「?わかっとるよ。スミレ1人で食べとったらえらい時間かかりそうな量やし。」 「…そうじゃねぇよ。察しわりいんだよてめぇ。」 クリーム色の生地が再びフライパンに流し込まれる。 俺が作るより少し大きめで、形が歪。 「勝手に居なくなるなよな!」 料理の邪魔になるからか いつも俺を擽る白銀は一つに纏まっていて 掴みやすいそれをグっと引っ張った。 「いだっ、スミレ今火ぃ使っと──ッ?!」 夜に焦らされた唇は確実にかきつばたを求めてる。 初めてしたキスは、勢いに任せたお陰で鼻と歯が当たって痛くて かきつばたの柔らかさとか温度とか、そんなの少しもわからなかった。 目を瞑っていたから全く見えていないけど 身長差がないのが救いだ。 よかった。 場所ミスったらまたかきつばたに馬鹿にされて、 おちょくられてもう1回とかニヤニヤしながら言われるにきまってる。 どうせ慣れてるだろうから。 俺と違って。 …そう思ったのに。 普段こういう恥ずかしい事すると黙れっつっても聞かないかきつばたの声がしない。 もう口は離してるし、喋るくらいは出来るだろうに。 掴んだ白銀はちゃんと手の中にあって だからかきつばたは俺の前にいる筈で。 いつまで経っても俺を揶揄う調子に乗った関西弁が聞こえなくて、恐る恐る目を開けた。 「……顔、あけぇんだけどなんだお前。」 「え、いや…お、お互い様やない…?」 肌が白いから、少しの変化でもすぐ気づく。 かきつばたは誰が見ても真っ赤で それを見た俺にまでどうしようもない熱が押し寄せた。 揶揄われる筈の俺が、逆に揶揄うとかどういう状況? 何でそんなあけぇの、俺以上じゃん。 待って、は?え、どういう……。 これって… 「お前!もしかしてした事ねぇの!」 「はぁ?」 なんだか妙に恥ずかしくて、嬉しすぎてやばくて 調子に乗る前に慌てて言葉を探した。 行き着いたのがこれだったのは、きっとかきつばたが散々俺に童貞だとか言ってくるせいだ。 「だから昨日も渋ったんだろ!そーいうことだろ!っはは、俺より年上のくせにファーストキスとかやっばwww」 頭抱えて呆れてるかきつばたから逃げるように、俺は椅子に座った。 用意されているナイフとフォークを持って もうすぐ出来上がる甘い香りを心待ちにして。 かきつばたの見たことないくらい照れた顔。 それをこれ以上見続けるのは俺には無理で、 だからっていつもみたいに抱き着かれるのも無理。 いいのか悪いのか、俺の前に皿を置いたかきつばたは いつも通りの色白ニヤニヤ変態バターに戻っていた。

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