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episode.22
早くかきつばたの待つ家に帰らなきゃ。
聞きたい事は山程ある。
何より明日24時間一緒にいられないなら
少しでも隣にいられる時間を増やしたい。
この気持ちがあいつにどこまで伝わってるのかは知らない。ただ今は…早く、会いたい。
角を曲がれば家までもうすぐという所で、
夕日に反射して煌めく白銀を見つけた。
無意識に力が込もり、スピードが増す。
「ん?…っスミレ早いやん、おかえりぃ。」
俺のTシャツを着て俺の靴を履いて
2人分の食べ物や日用品の詰まった袋を持つかきつばたに、言葉にならない優越感を抱いた。
「まーな。本気出したから。」
どや顔の俺を見てかきつばたは面白そうに笑う。
振り返った時、一瞬だけ驚いたのとは違う変な顔をしてたけれど
すぐにいつものかきつばたに戻ったから特に気にする事はなかった。
お前と沢山話したくて一緒にいたくて、頑張って早く帰ってきたんだから
もっと喜べよな、ばーか。
かきつばたが買い出ししてくれてるのも知ってるし、
近所のおばちゃんもよく俺にかきつばたの話をしてくるから
昼の明るいうちから出歩いてるのも、
設定上俺とかきつばたが従兄弟なのも知ってる。
けど、こんな風に帰りが一緒になったのは初めてで
だから同じ家に並んで帰るのも初めてだ。
先に行っちゃうと思ったけど、かきつばたはちゃんと駐輪場までついてきてくれた。
ロックかけてる間に荷物持ってくれるし
相変わらず世話焼きの性格に俺は甘えっぱなしだ。
「俺さ、お前に聞きたい事あんだよ。」
「え~何やの急に~。」
揺れる長い髪を輝かせて歩くかきつばたは、
教科書も制服も全部詰め込んだパンパンのスクールバッグを抱えて楽しそうに笑っている。
俺がもう少し自分に正直で、
もう少しそういう事に慣れてる大人だったら、
今すぐかきつばたに抱き着いて反応見て笑ってやりたいのに
…って、それじゃまるでかきつばただよ。
俺はそんなに手は早くねえ。
俺の基準がかきつばたになりつつあるのが怖い。
家に入って、いつもは俺が言われる言葉をかきつばたに言ってみた。
「かきつばた~おかえりぃ~。」
かきつばたの口調を少しだけ真似したりして。
「っふふ。ただいまぁスミレ。
…こんなん、言ったんも言われたんも初めてやわぁ。」
柔らかく笑うかきつばたは、宇宙一格好良いと思う。
だが俺は、そこで妙な違和感を覚える。
今まで一体かきつばたはどんな世界で生きてきたんだろうって。
こんな在り来りな事、
言ったのも、言われるのも初めて…って何だよ?
「あれぇ、スミレ?」
「え、なに?」
「お帰りのチューないん?」
「はぁ?!ねーよ!ねーだろ!離せ柿!」
いきなり何を言い出すかと思ったら。
新妻か俺は。
新婚か俺達は。
お前だってして来た事ねぇだろ!
違和感なんて些細な事は、かきつばたの爆弾投下によりどこかへ行ってしまったようだ。
口を尖らせるかきつばたは玄関に放置してやった。
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