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episode.25

昨日、呼び止められた時には既にスミレの顔は真っ黒になっとって 一瞬誰なのかわからんかった。 限りなく濃い死相。 スミレ以外はみーんな呑気な顔しとるし アパートの周りは平和そのものやった。 じゃあなんで? また何かに巻き込まれるん? 折角…ようやく少しずつやけど素直になって 俺に下手クソなキスまでしてくれたのに? そもそもスミレが何をしたん。 何があってここまで危険な目にあい続けなあかんの。 スミレは何にも悪くないはずや。 高校生やのに自炊して 文句言いながらも俺の面倒見てくれて こんな何処の馬の骨ともわからん俺の事を傍に置いてくれて。 俺が経験したこともない色んな愛情をくれて、 知らんかった、知ろうとすらしなかったこっ恥ずかしい感情をくれた。 自分の寿命がもう直ぐそこまで迫っとるなんて知る由もないスミレは 今日もいつも通り。 その笑顔も怒った顔も、恥ずかしがる顔も照れた顔も。 寝顔も泣き顔も俺の前で見せてくれた表情全てが愛おしくて仕方ないのに。 今となっては黒い影に塗り潰されて 目を凝らしてもまともに見えん。 これっきりなんて耐えられる気がしなかった。 あぁ、こうなるから今まで愛だの恋だのはしてこなかったんやろうな…なんて。 けれど、いつからか芽生えたこの感情に 不思議と後悔はない。 現実離れしとるであろう状況を戸惑いながらも受け入れてくれた、俺の恩人に出来る事──。 こんな化け物やけど、それでもスミレを守ってやれるのは 多分俺だけやから。 俺がどうなってしまうかは知らんけど それでもスミレの笑顔を守れるのなら。 以前の俺には想像も出来なかっただろう。 この俺が、たった一人の為に命を捨てる選択をするなんて。 夜になっても消えないどころか更に色濃くスミレの顔に影を落とす死相。 それは俺の決意一つではどうにもならない域に達しているという事で。 嫌に緊張してしまうこれは、 スミレを失う恐怖か、それとも自身の死滅への恐怖か。 隣で眠るスミレを強く抱き締めた。 普段は一度寝てしまえばピクリとも動かない癖に、 俺に応えるよう背中に腕を伸ばすスミレが可愛くて 離したくなくて、守りたくて。 別にあの世界のルールを忘れたわけやない。 けれど俺が犠牲になる事でスミレの未来が繋がるのなら、いくらでも犯してやる。 翌日、どうにかしてスミレが纏う影を薄くしようと 支度に時間をかけたりすれ違う車に警戒したりと奮闘してみたものの、 スミレの全身を染め上げる闇をどうする事も出来んまま その時は来てしまった。 ほんの少しも目を離さないと、そう決めたはずやったのに。 ふと気が抜けてしまった瞬間やった。 スミレのささいな優しさが嬉しくて。 ふと視界に入った真っ暗闇の男が、 スミレ向かって突っ込んだ。

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