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episode.28

「これが貴様にとって良い知らせかどうかは私には分かりかねるが …人として寿命を全うさせるおつもりらしい。」 「…は?」 「限りある命。いつか訪れる死に恐れる毎日を送るなど、私には到底耐えられないがな。」 紅薔薇はそれだけ言うと 止まったままの電車に向かって歩き出した。 よく目を凝らさなければ、紅薔薇の姿は見えんくて 人混みに埋もれてしまえば、 何処におるのかもわからんくなってしもた。 もしかしたらもう 紅薔薇の姿をこの目で見ることは無いのかもしれん。 スミレと同じ、人に変わっていく自分のそれでは。 「かきつばた?さっきからお前…誰と話してんだ?」 ふと、耳元で聞こえた愛しい人の声にハッとする。 「んーん、なんでも。 …さ、こんなんやと電車なかなか動かへんで。 友達に連絡しとき。…帰るで、スミレ。」 「うん…て、お前!」 「え?」 驚いたスミレの顔は、 なんだか今までよりも色鮮やかに思える。 これが、人というものなんやろうか。 これが、人の見る世界なんやろうか。 「目の色…黒くなってるし、爪も…。」 目は流石に自分では確認出来んけど、 手元を見て息が止まった。 スミレを傷付けた忌々しい毒爪は、 いつの間にかスミレと同じ色をしとって 指先の痺れも消えていた。 残っとる違和感といえば鉛ばりの重苦しさだけ。 「なぁ重力キツすぎひん?人間ってこんななん? そら動きたなくなるわぁ…。」 「は?何言ってんだ?」 頭の上に「?」の浮いとるスミレに思わず吹き出した。 そら意味わからんよなぁ。 「帰ったら俺の話聞いてくれる?」 「んなの当たり前だろ。」 「んっふふ。ありがとうなぁ、スミレ。」 緊迫した空気の中、こんな風に男同士が手を繋いだとて 誰も気に留める奴はおらんやろう。 指を反らさず、俺の手の全部でスミレを包み込めるこの幸せが一体いつまで続くのか もう俺にはわからへんようになってしもた。 またスミレに死相が出とるかもしれんし、 俺に出とるかもしれん。 けれど、それが人やから。 一日一日、一分一秒を大切な人と過ごして 悔いの無い人生を歩んでいこうと思う。 薔薇の香りを頼りに 奴がいるであろう方を向き、手をあげた。 「俺が死んだ時は…あんたが導いて。」 せやからそれまで、 紅薔薇も何処かでちゃんと生きとって。 またいつか、もう一度会えるその日まで。 指先にほんの一瞬、暖かな風が触れた気がした。 大切な、俺の同志で相棒やった紅薔薇。 友人との別れというのは、やっぱり少し切ない。

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