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***  次に目覚めたとき、聖利の視界には見たことのない天井が映っていた。状況が整理できず、しばし天井を眺めてぼうっとする。  身動ぎすると、母親の声が聞こえた。 「お父さん、聖利が起きたわ」 「聖利、わかるか?」  覗き込んでくるのはイギリスに赴任中の両親だ。帰国は一週間先のはず。 「父さん、母さん……」 「よかった。二日ほど眠っていたのよ。まだ体調が苦しいでしょう。寝ていなさいね」 「先生を呼んでこよう」  父が室内を出て行く。どうやらここは病院のようだ。救急車で運ばれたことだけは覚えている。二日も眠っていたなんて、本当に自分の身体はどうしてしまったのだろう。両親はきっと、仕事を投げ出して駆けつけてくれたのだ。 「楠見野聖利くん、調子はどうですか」  父に伴われ、三十代半ばとおぼしき医師が入室してくる。白衣に梶とネームプレートがついている。この医師が見てくれたのだろうか。そもそも、ここは何科の病棟だろう。 「顔色良さそうですね。少しお話しましょう」  両親が横に控え、聖利はベッドに身体を起こした姿勢で、梶医師の話を聞くこととなった。 「……転化オメガ……ですか?」  聞き慣れない言葉に、聖利は首をかしげた。梶医師は頷いた。 「稀な症例です。私も実際見たのは聖利くんが初めてですが、ほぼ間違いないでしょう。今、アメリカの専門医に血液とデータを送って検証してもらっています」  この梶という男はバース性の専門医のようだ。まだよく理解できないでいる聖利に、梶はタブレットを手渡した。わけがわからないまま覗き込む。 「これは聖利くんの身体のMRI写真です。今映っている臓器がオメガの子宮です。直腸の奥に形成されています。まだ小さいですが」  聖利は息を呑んだ。  子宮? オメガの?   それが自分の身体の中にある?   途端に手が震えだした聖利に、梶は落ち着いた声音で告げた。 「聖利くんはアルファと診断されましたが、現時点ではオメガです。もともとオメガ因子を持ち、後天的にバース性が変化したと考えられます。転化オメガと呼ばれ、国内外で三十件ほど症例があります。周囲の状況に合わせてバース性を変えられるというのは、もっと人間が少なかった頃の名残と言われ、遺伝子的な先祖返りとも考えられています。まだ研究段階ですが」

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