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「待ってください……。それは、僕はアルファではなく、これからオメガとして生活していかなければならない、ということですか?」  梶はわずかに沈黙してから、重く頷いた。それは聖利の狼狽を見てとり、事務的に伝えるだけでは不十分だと思った様子だった。 「転化オメガはアルファの特性をそのまま残す人がほとんどです。きみは勉強や運動の分野で、変わらない活動ができます。突然能力が落ちるようなことはないでしょう」  両親は先に医師から話を聞いていたのだろう。母が聖利の肩を抱いてくれる。 「それにね、お薬が効きやすい性質だそうなの」 「お母様の言う通り、転化オメガは非常に抑制剤が効きやすく、最低容量の服用でヒートを抑えられるという特徴があります。ヒート自体は起こりますが、ごくごく軽い。きみはすべてにおいて、今までと同等の生活が送れるでしょう」 「でも……!」  オメガなんですよね。その後の言葉は続かなかった。  さすがにショックが大きい。アルファを優等種と考える社会において、その座をはく奪されたようなものだ。そこまで考えて、我ながらそれなりにアルファであることに優越感を覚えていたのだなと自嘲してしまった。  優秀なオメガは確かにいるが、社会で成功しているのはほんのひと握り。アルファの能力があっても、聖利はこれからすべてにおいてオメガとして扱われる。  大学に入り、両親と同じ省庁勤務の官僚を目指していた。果たせないことではないだろうが、今まで描いていた人生設計が音をたてて崩れるような心地だ。 「今回はファーストヒートということもあって、発情が弱かったと思われます。同室のアルファのお友達も、上手く対処してくれたようですね。今後は抑制剤を飲めば問題ないですが、もし不安ならベータのルームメイトに変更してもらうことも検討した方がいいかもしれません」  友達……そこでいっきにあの朝の光景が蘇った。來。來はどうしているだろう。  キスをし、組み敷いてきた來。舌を這わせられ、それで……。  羞恥に耐えながら、冷静に思考を組み立てる。そうか、來はオメガのフェロモンにあてられてしまったのだ。自分を殴ってまで堪え、聖利を運んでくれた。 「念のため、ファーストヒートが完全に終わるまで今回は入院です。抑制剤を飲み続けることで、三ヶ月後のヒートはほぼ変調を覚えずに終われるはずです。その頃、また受診してください」  両親が頭を下げ、聖利もならって頭を下げた。まだ信じられなかった。

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