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 聖利はきりっと眉を張った。駄目だ。期待から來の言葉を都合よく解釈するな。 「來、そんなことをして、おまえになんのメリットが?」 「メリットは別に? 強いて言うならおまえが苛々しなくなるから、八つ当たりされる回数が減るってことくらいか?」 「八つ当たりなんかしてないだろう!」  つい口調がきつくなる。  やはり來は冗談で言っている。ひどい冗談だ。そんなつもりはなくともこちらは動揺してしまうし、惑わされてしまう。  聖利とて考えなかったわけではない。オメガ性になった自分は、來と番になれる可能性がある。今すぐは無理だが、ゆくゆくは子を成せる身体になる。彼の伴侶としての条件をクリアできる。  しかし、すぐに思い直した。來が自分のことなど好きになるわけがない。いつもからかってばかりで、まともに相手しようともしてこない。  それに、來は不完全とはいえ聖利のヒート発作をかわすことができた。それは本能の部分で聖利を求めていないのだ。きっとその証明だ。 「いーじゃん。聖利、俺のこと好きだろ?」  軽薄な口調に、あの日の出来事がいっきに蘇った。やっぱりばれているのか? 嫌な脂汗が滲む。  聖利を組み敷いた來は言った。『俺のこと好きだもんな』と。あれが熱に浮かされた言葉で、本人は忘れているとしても、聖利には恐ろしい言葉だった。絶対に知られたくない気持ちだった。 「スカした斉藤とかゴリラみたいな木崎より、俺や原沢の方が好きだろ? じゃあ、俺でいいじゃん。俺が番なら気楽でいいぞ」  拍子抜けした。どうやら、來の言いたかった『好き』は意味合いが違ったようだ。からかい言葉の延長。しっかり振り回されて馬鹿みたいだ。 「確かにおまえや知樹は気心も知れてるけど、だからこそ番なんてごめんだね」  ふんとそっぽを向くと、再び聖利の手からコーヒーを奪い取って來はひと口飲んだ。 「ま、ホントに困ったら言えよ。フリくらいならいくらでもしてやる。アルファ除けになるぞ」  まったく、と聖利は嘆息した。散々からかわれ、ひとりで狼狽してしまった。  好意的に見れば來なりに気遣ってくれているのだろう。味方になってやると言いたいだけ。それなら怒っていても仕方ない。 「気持ちだけ、もらっておくよ。ところで、來、寮の仕事の件だが」 「なに? 高坂寮長になんか言われた?」 「僕は直接言われてないけれど、他の一年が困っていたぞ。來が掃除や当番をサボるから」 「あとで高坂寮長と話すわ。連帯責任にはすんなって」 「おまえが真面目に出ればいいだけの話だ」  いつものやりとりをしていれば、自分と來の間に起こったことなど夢のまた夢のような心地がしてくる。叶わないなら引きずらない方がいいのだ。  オメガになったって、自分の気持ちは何ひとつ変わらないままだ。

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