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『聖利、おまえって格好いいな』
來の声が響く。聖利の額の髪を指で除け、精悍に笑う。
『たいしたことない』
『いや、尊敬するよ』
目を逸らした聖利を覗き込んではっきり告げる。
『聖利は格好いい』
はっと目を開けると、そこは高等部寮の自室だった。控えめなアラームの音。朝五時だ。
アラームを止め、聖利は身体を起こす。夢を見ていた。随分昔、中等部一年の頃のこと。なんで今更あんな夢を見たのだろう。
ちらりと横のベッドを見ると、來が背中を向けて眠っている。昨夜も遅かったことを知っている。どこで遊び歩いているのだろう。案外、学園のある山を下りた先に、恋人でもいるのだろうか。
想像したら不快な気分になり、首をふるふると振るう。立ち上がり、素早くランニング用のTシャツとジャージに着替えた。部屋を出て、玄関でランニングシューズをはく。
朝の日課はオメガになっても欠かしていない。ランニングだけでなく、時間がある時は校内のジムでも汗を流すようにしている。自己鍛錬はひとりでもできる。やはり部活はやめて生徒会に所属しようか。所属届けの期限は近づいている。
現生徒会長の三井寺(みいでら)は、温厚で笑顔の優しい人だという。寮長の高坂とも仲が良い。例年、生徒会と寮三役は不仲であることが多いらしいが、今年は良好な関係と聞いている。寮長の高坂は聖利のオメガ転化から、シャワーや着替えなどに便宜を図ってくれ、ヒート期の当番関係の免除などを提案してくれている。あの高坂と良い関係の生徒会長なら、実際に話したことはなくとも信頼がおける気がする。
「楠見野」
考え事をしながらランニングをしていたら声をかけられた。後ろから追いかけてきたのは小村だ。以前、聖利に告白してきたベータの同級生は、横に並んで走り出す。
「おはよう」
「おはよう、小村。今日も会ったね」
「ああ、まだ部活を決めかねていて、運動不足だからさ」
何気なく言って横を走る小村。実は数日前も、朝のランニング中に出会っている。確か彼は中等部時代ソフトボール部だった。部活がなければ、運動不足にもなるだろう。
「理系は来週また学力テストがあるんだって? 大変だな」
「ああ、文系はその分、小論文の作成と発表が一学期中に二度あると聞いているよ。お互い忙しいね」
時折、世間話をしながら走る。小村は楽しそうだ。
「その……楠見野、身体は平気なのか?」
オメガの話題だとすぐにわかった。聖利は慣れた口調で答える。
「問題ないよ。抑制剤さえ飲んでいれば、アルファの頃と何も変わらない。医師のお墨付きなんだ」
「そっか、そうなんだ」
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