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 彼が告白してきたひと月半前、聖利はまだオメガに転化していなかった。彼が今、自分をどう見ているかは知らないが、番候補のアルファが群がっていることは知っているだろう。聖利本人は不本意なことだが。 「オメガが珍しいのか、今は話しかけてくる人間が多いけれど、いずれ落ち着くと思うよ」 「迷惑してるだろう? 馬鹿みたいだ。みんな急に楠見野に夢中になって」  小村が眉をひそめて言う。歩調が緩む。 「小村?」  合わせて走りを緩め、立ち止まった小村を振り返った。小村はうつむいて言う。 「俺は、楠見野がアルファでもオメガでも好きなのに」  聖利の脳裏に、來の言葉が蘇る。期待を持たせるような断り方は残酷。來はそう言った。 今も彼が気持ちを持て余しているのなら、聖利の断り方はやはり間違っていたのだろう。 「小村、僕は誰かと付き合う気はない。きみとも、今僕に声をかけてきているやつらとも」 「友達ではいてくれるんだろ……」  うつむく小村に近寄ると、ばっと彼は顔をあげた。追い詰められたような切迫した表情をしていた。 「楠見野、きみが可愛くて綺麗で、誰よりも優れているって最初に気づいたのは俺なんだよ。それなのに、あんなやつらと同列に並べないでくれ。俺たちは友達だろ?」 「……ああ、友人だ。だが恋愛感情はこの先も期待しないでほしい」  小村は思い詰めている。だからこそ言うべきだった。そもそも聖利の心には海瀬來がいる。來以外を好きになる未来は、今は見えない。 「きついな……。絶対に俺なんか好きにならないってことか。……頭はやっぱアルファのままなんだな。ベータじゃ無理か」  バース性の問題じゃない。気持ちの問題だ。  しかし、そんなことを言って小村に伝わるかもわからない。 「戻ろう、小村。朝食が始まってしまう」  声をかけると、勢いよく腕を掴まれた。不意のことでぎょっとする。  振り払おうか考えた次の瞬間、聖利ではない腕が小村の手を叩き落としていた。 「ら、來!」  後方を見あげて、聖利は叫んだ。小村の拘束を解き、聖利を背中側から守るように引き寄せたのは來だ。 「小村、だったよな。知ってるか? 聖利はお触り厳禁なんだよ」  偉そうにせせら笑ってみせる來は、とても挑発的だ。先ほどから興奮冷めやらぬ小村が怒りに顔を歪め、來をねめつける。

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