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「海瀬、それならおまえこそ楠見野に触るな! おまえはアルファだから危険だ!」 「残念ながら、高坂寮長から聖利のことを任されてんだよね。俺はこいつのヒートに耐性があるようだから」  本当に高坂寮長が頼んだのだろうか。そして、耐性があるなどと調べたわけでもない。おそらく來が適当に言っているだけだ。 「聖利に下心を持ってんだろ? 物欲しげなツラしやがって。金輪際、聖利の近くをうろつくな。こいつはこいつで大変なんだから、おまえの気持ちを押し付けんじゃねーよ」 「來!」 「行くぞ、聖利」  言葉を返せない小村を無視し、來が聖利の腰を抱いて歩き出す。それは逃がさないように捕獲している格好だ。 「來、あんな言い方」  随分離れてから、聖利は來を見あげてたしなめた。 「おまえが言いづらいことを代わりに言ってやっただけだけど?」  そう言ってニヤニヤ笑うのだからタチが悪い。しかし、正直困っていたタイミングだった。 「……結果、助かったことは否定しない。その……ありがとう」 「どーいたしまして」 「ところで、汗をかいているんだ。離してくれ」 「離したら逃げるだろ?」 「逃げ……寮に向かってないな? どこへ行く気だ」  來の足は学園裏手の丘陵へ向かっている。散策のできる庭園を抜け、林に囲まれた小高い丘へやってきた。実習などで使われる場所だ。朝食前の時間帯、当たり前だが学生は誰もいない。 「ここでメシ食おう」  そう言って來は芝生にどさりと座る。片手に持っていた袋からコンビニのサンドイッチとおにぎりをガサガサと取りだした。まるで最初からふたり分用意していたかのような量だ。 「聖利を朝飯に誘おうと思ったらおまえ走りに行ってるからさ。迎えに出てきた」 「なんで、僕と朝食なんか」 「そういう気分だったんだよ。聖利、最近いっつもカリカリしてるから、息抜き?」  どうやらまた気を遣わせてしまったようだ。 オメガになってから、自身を取り巻く環境の変化に若干ついていけない。もしかして來には一番苛立ちを見せてしまっていたのではなかろうか。 「高坂寮長に頼まれたって件、嘘だろ?」 「ああ、嘘。『楠見野に迷惑かけるな』とは言われたけどな。まあ、ああ言っとけば小村程度の手合いは遠ざけられるだろ」  番の振りではないものの、聖利を守る算段をつけてくれていたのだ。胸がじんと温かい。同時に、聖利は今朝方の夢を思いだす。

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