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「今朝、來の夢を見たよ」
「急になんだよ」
サンドイッチをひとつとペットボトルを放ってよこしながら、來が微笑む。
「中一のとき、ほら来客のご婦人が転んで、僕が保健室におぶって運んだことがあっただろう?」
「あー、誰かのばーちゃんがコケたやつな」
「僕ひとりじゃ運べなくて、おまえがかなり手を貸してくれたのに。全部終わったら來は『俺は何もしてない。聖利が勝手にやった』って言った。さらに、僕に『おまえは格好いい』って」
「そんなこともあったっけな」
とぼけているけれど、きっと覚えている。來の心根は優しい。からかってくるし、素行はよくない。先輩にも教師にもウケが悪い。だけど、温かな心を持っていて、そこに聖利は惹かれてしまったのだろう。
「來はずるいよ。格好いいのはおまえなのに、いつも一歩引いて知らん顔をする。さっきのこと、本当にありがとう。この朝食も気遣ってくれてありがとう」
「いきなり素直になるなよ。らしくねーぞ、優等生」
苦笑いする來が愛しいと思った。
朝陽を浴びる濃いブラウンの髪も、高い鼻梁も、透ける睫毛も全部綺麗だ。
いつか來も、この笑顔を恋した誰かに向けるのだろう。今、聖利が一瞬の幸福を味わえるのは來の気まぐれと優しい気遣いのため。それなら、このひとときを独り占めしたい。
幸福な青春時代が終わりを告げたとき、何度も思い返せるように、心に刻み付けておきたい。
「聖利のことは、今でもまあまあ格好いいと思ってんぞ」
「いいよ、リップサービスは」
「違うって。オメガに転化したら、俺はきっと同じように平然とはしてられない。まあまあビビリだし」
「來がビビリだったら、世界中の人間がビビリってことになるだろうな」
「おまえはすげーって言いたいの」
來の整った顔を見つめる。來もまた聖利の顔をじっと見ていた。
きっと恋人同士ならこの瞬間唇を重ねるのだろう。朝の光の中、互いしか瞳に映らない尊い一瞬。
しかし、ふたりの間に恋はない。聖利は視線をそらし、空気を変えるように言った。
「まあ、ライバルとしてはもう少し本気を出してもらわないと困るな。そこそこできないと、競争しても楽しくない。次の学力テストは、僕を脅かしてほしいもんだ」
「煽ってくるじゃん。わかったよ、もうちょっとだけ本気を出して遊んでやるっつうの」
「そう言って僕に敗けるんだ。楽しみだよ」
ふたりは顔を見合わせ笑った。友人としてライバルとして。
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