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「なあ、聖利って卒業後は都内に戻る? 実家そっちだろ? 大学は?」
不意に進路のことを聞かれ、聖利はわずかに言葉に詰まる。
「えっと、両親が海外でね。その頃、どこにいるかわからないけれど、両親のいる国の大学を受けようかと……。実はまだ決めていないんだ」
高校を出たら、來とは会う機会もなくなるだろう。まだそこまで先のことを考えたくないというのが本音だ。
「まあ、おまえの頭ならどこでも入れるだろうな。焦ることねーのか」
そう來は呟いてから、聖利の顔を覗き込んでくる。
「それなら俺と同じ大学行くか。帝立大」
「え!?」
急な誘いに頓狂な声をあげてしまった。帝立大は国内最難関の国立大学だ。修豊真船学園からも毎年何人も入学する。
「なんで、大学まで來と一緒なんだ」
内心、ものすごく嬉しい言葉に狼狽しながら必死に嫌そうな顔をしてみせる。
「俺と一緒だと張り合いがあって、やる気でるんだろ? 同じ理系だし」
「嫌だよ。大学までおまえの面倒を見たくない」
「あ、聖利、家事できないのか。だから、卒業後もひとり暮らしが不安で親元へ行くんだろ?」
からかわれているのだと思いつつ、「家事くらいできる」と答えておく。本当は掃除以外自信がなかったりする。
「俺とルームシェアすれば問題解決。俺、料理も洗濯もできるし。アイロンもかけられる」
「だから、この学校を出てまで來と一緒になんかいないよ!」
強気に言い切って、胸がずくんと疼いた。來はどういうつもりでこんなことを言うのだろう。落ち着け、きっといつものからかいだ。それなら、好意の欠片だって見せてはいけない。
「……來は僕のバース性を心配してくれているんだろう? だけど、抑制剤さえあれば通常の生活がおくれる身だ。心配しなくていい」
「心配っていうかな」
來が顔を寄せてきた。急な接近に心臓が慌ただしく鼓動を早める。首筋に來の顔が近づいた。吐息がかかる距離だ。
「たとえば、今俺がおまえの甘いフェロモンの匂いを感じているって言ったらどうだ?」
「え……そんなこと」
あるはずがない。抑制剤は効いている。血中の薬剤濃度は定期的に調べることになっているし、現に学園中のアルファの誰も匂い指摘したりしない。今ここにいる來以外。
「実はこの前嗅いだときも弱くだけど匂いは感じてた。俺の鼻が格別にいいのか。よほど、おまえとの相性がいいのか……」
相性がいい、その言葉に心臓がどくんとひとつ大きく鳴った。落ち着け。來は変な意味で言っていない。これは恋愛的な意味じゃない。
「俺みたいな鼻が利くアルファに出会ったら、そんなぬるいことを言ってらんねーと思う。しつこいヤツがあらわれたとき、俺が近くにいれば……」
「そうだとしても!」
言葉を遮るように言い、聖利は來を見つめた。強い口調で続ける。
「來には関係ないだろ」
聖利の拒絶的な言葉に、來は口の端を歪めて皮肉げに微笑んだ。
「まあ、そうだな。全部、俺のお節介」
そう言って無造作に新たなおにぎりの包みを剥がした。
「飯食って戻ろう」
「ああ……」
せっかく、すごく打ち解けたムードだったのに、と聖利は無念な気持ちになった。きつい言い方をしてしまったせいで、空気がおかしくなってしまった。
気まずいような恥ずかしいような、妙な心地の朝食はそうして終わった。
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