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***  どうしよう。  聖利はここ三日ほどずっとそわそわとした気持ちでいる。  先日、ふたりきり屋外で朝食を取った日以来、聖利の意識は完全に來に向いている。  來とふたりで過ごしたほんのひと時、笑い合ったこと、近い将来のこと……。打ち解けた空気を壊してしまったのは自分だったけれど、聖利の心には幸福以外なにものでもない朝がある。  そうなると、同室、同じクラスというのは気まずくてならない。会えば、赤面しそうになるのを隠さなければならないし、浮かれた態度になっていないか心配になる。さらにはこんなときに限って來はあまり出かけず、寮の自室で鉢合わせてしまう。  聖利はさりげなく居室を出るようにした。図書室や自習室に用事がある振りをしてふたりきりの空間に留まらないようにしている。  來はからかいたいのか、会話のきっかけにしたいのか、部屋を出ようとすると声をかけてくるが、聖利はなるべく相手にしないようにしている。  來の顔を見ていられない。ドキドキしてしまうし、変な態度を取ってしまう。  中学三年間押し殺してきた気持ちが、死んでいないと声をあげる。あの朝の清浄で幸福な一瞬が恋の情念を彩って、心の火を大きくしてしまう。 「聖利、どこ行ってんの?」  三日目のこの日も來に声をかけられ、聖利は振り向いた。來は半袖Tシャツにトラウザーズ、ベッドに腰かけ片手にはスマホだ。何の気なしに声をかけているのがわかる。聖利はつとめて冷静に答える。 「自習室に」 「勉強ばっか。全然部屋いねーじゃん」 「別におまえを邪魔に思っているわけじゃない。出ずっぱりの來が寮にいるのはいいことだと思っている」 「じゃあ、並んで仲良く勉強する?」  來がからかう口調で笑い、腰かけていたベッドから立ちあがった。聖利は眉をひそめた。 「嫌だね」 「そっかよ。まあ、今日はこの部屋を譲るよ。俺はこれから出るから」  來は財布とスマホを尻ポケットに入れて片手をあげた。また抜け出す気か。険しい顔を作り、聖利は來を見あげた。 「來、いい加減、素行を見直したらどうだ? 僕の体調の心配より、おまえは退学になる心配をした方がいい」 「なんない、なんない。聖利と卒業するから、大丈夫。でも、聖利が俺を心配してくれるのはなんかいいな。女房みたいで」 「からかうな」  怒る聖利の様子は意にも介さず、來は明るく笑って出て行ってしまった。  まったく來ときたら、多少は気遣いのようなものを見せてくるかと思ったら結局これだ。ふらふらと無責任で、こちらの気持ちなんかお構いなしで。

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