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 來に言われたことがつい頭をよぎる。  同じ大学、ルームシェア……。それが軽い気持ちで言った言葉で、あくまで事情を知る友人としての提案でも心を揺さぶられてしまった。  ふたりで暮らしたらどんな感じだろう。來は本当に家事ができるのだろうか。それとも、何かにつけて適当で自分は怒ってばかりだろうか。想像し、聖利は頬を緩めた。 「こんなふうにシャツを脱ぎ捨てて行くヤツが家事できるとか言われてもね」  ベッドに放り投げてあるのは制服のカッターシャツとベスト。先ほどまで着ていたそれらを拾い上げ、皺を伸ばすようにばさりと振るった。すると、鼻孔をくすぐったのは來の香りだ。 「ん……」  身体の奥底がじんと甘く痺れる。思わず鼻に抜ける声が漏れ、聖利は驚いた。 「何、今の」  手のひらがじわりと熱くなり、そこから熱が伝播していく。椅子にかけようと思っていたシャツとベストを手から離すことができない。 「駄目だ、こんなの」  口ではそう言いながら、まるで來そのもののようにシャツとベストを抱き締めた。ぎゅっと腕で抱えると、來の香りが強くして目眩がした。心地よい陶酔感を覚える。  身体の奥底がずくんずくんと疼くのに、心は甘く満たされ落ち着いていく。不思議な感覚だ。  もっと、來の香りがほしい。  抑えきれない欲が聖利を動かす。遠慮がちに來のベッドに腰かけ、思い切って横にぽすんと倒れて見る。枕やシーツから、來の香りがする。 「んん……駄目だって……こんなことしちゃ」  抑えきれない。シャツもベストも枕も羽毛布団も抱え込み、聖利は丸くなった。  鼓動、疼き、陶酔、悦楽。  身体をあまやかな感覚が満たし、気づけば聖利の意識はなくなっていた。 「……聖利、聖利」  呼ぶ声にゆるゆるとまぶたを持ち上げる。室内は暗い。開け放たれたカーテンから入る月光と口内の外灯の光で、自分を揺り起こしたのが來だと気づいた。 「らい……」 「聖利、おまえ……」  今は何時だろう。夕食はとっくに終わっているだろうし、シャワーも浴びそびれている。それにしても、來はどうして妙な顔をしているのだろう。  そこではっと聖利の意識は覚醒した。自分が來のベッドで來の衣服や寝具を抱え込んで眠っていたことに気づいたのだ。 「……っ! ご、ごめ……! つい」  聖利は飛び起き、転がるようにベッドを降りた。しかし、來に肩を掴まれ、ベッドに腰かけ直される。 「なあ、聖利、これって」  言われなくてもわかる。所謂オメガの巣作りだ。番や好意を持つアルファの身の回りのもの、とりわけ匂いの強いものを集めてしまう。オメガの精神的な安定に繋がる本能的な行為だ。  発情期に起こることが多いと聞いている。しかし、抑制剤を持ってしてもこんなことをしてしまうなんて……。

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