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5.まだ俺のもの-1
「こんなものかな」
荷物を所定の位置にしまい、ふうと息をついた。五月下旬、聖利は五階の自室から二階の空き部屋に一時的に移動した。
寮長の高坂に頼み、來との同室を解消したのだ。
「まあ、“一時的”だけど」
聖利は高坂に『新しい抑制剤を試す期間に入るので、一時的にひとり部屋に移りたい』と説明した。けして來との関係には言及せずに、『今はアルファでもベータでも同室はいない方がいい』という言い方をした。
当初から聖利の境遇に理解を示してくれている高坂は、シャワーで使っていた二階の空き部屋をそのまま一時的な聖利の居室としてくれた。『俺たちも同じ階だから、何かあったらすぐに呼べばいい』と。三年生は全員が個室なので、二階と三階は彼らのスペースだ。
ひとまず、これで來と離れることができた。
そのことについては安堵しかない。あのまま一緒にいるべきではなかった。來を求める気持ちを抑えられなくなる。ヒートが起こったとき、本当に軽い症状で済むかも自信がない。感情のままオメガの引力で誘ってしまえば、來とてわからない。
來は聖利に好意はない。ライバルとしての友情はあるようだが、番になってもいいなどと言うのは責任感からだろう。それは恋愛感情ではない。
不幸な事故は起こしてはいけない。いくら聖利がまだ正式な番ができない状態だからといって、一度でも関係を結んでしまえば來はいっそう責任を感じるだろう。そういう男だ。そんな優しいところを好きになったのだ。
「これでいい」
來がなぜ、ことさら聖利のフェロモンに反応してしまうかはわからない。やはり一度抑制剤の見直しはすべきかもしれない。次のヒートの予定はまだ先だが、病院のバース性科に予約を取っておこうと考えた。
ふと、部屋を見渡す。先日、來に触れられたのはこの部屋のシャワールームだった。
あのまま來と繋がってしまえたら、どれほど幸福だっただろう。來の名を呼び、はしたなく喘ぎ、好きだと言ってしまえたらよかった。自分にはそんな資格はないというのに。
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