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翌日から極力來に会わないように苦心する生活が始まった。
ランニングの時間を早め、朝食も早めに取る。クラスでは視線を合わさないようにし、常に知樹や他の友人たちとつるみ、來が近寄りづらいようにした。放課後は早々に生徒会に赴き、仕事をする。
來は寮の食事には半分くらい顔を出さない。そうなると授業以外で來と遭遇しない日は増えた。
來も進んで聖利に話しかけようとはしていない様子だ。たまにこちらを見ている視線は感じないでもない。しかし聖利はすぐに打ち消す。きっと自意識過剰なのだ。
実行してみれば、來と話さないのは簡単だ。こうやって生活していこう。來と離れて生きていこう。卒業まで関わらないように。
そうだ。医師に診断書を頼めばいい。今後もルームメイトはいない環境が望ましいと証言してもらおう。ズルいかもしれないが、そうすれば來と正式に同室解消だ。
聖利は密かに心を決め、早々に病院に予約を入れた。
***
聖利が居室を移ってから一週間ほど経った。
昼休み、生徒会室に用事があって赴いた聖利は、少々遅くなった昼食のため学食へ向かっていた。知樹たちと約束をしている。彼らは先に行って、席を取っているはずだ。
学食前の廊下で騒ぎが起こっているのは、人だかりでわかった。怒声と物音、誰かが争っているようである。
近づくうち、その中心にいるのが來だと気づいた。
來が襟首を掴み上げているのは柔道部の木崎だ。以前、聖利に教室で交際を申し込んできたクラスメートである。
囃す声、制止の声、そのど真ん中で來は平然と木崎を吊り上げ、腹に膝を入れる。同じくらい上背があり、木崎の方が横幅も筋肉もあるように見える。さらにはアルファ同士で、木崎は柔道部。どうみても來の方が分が悪い。
それなのに、來の膝の一撃で木崎はずるりとくずれ、床に膝をつく。來は表情も変えていない。なお、掴みかかろうとする木崎の腕を払い、肩を蹴り倒す。倒れた木崎の胸を追いうちとばかりに踏みつけたのだ。
容赦などない。圧倒的だった。
「來!」
聖利は思わず叫んだ。関わらないようにしようなどと言っている場合ではない。なぜなら、來は無表情でありながら強い怒りを放っていた。殺気と言いかえてもいい。完全に勝負がついているのに、呻く木崎から足をどけないのだ。
「來、やめろ!」
人だかりをかき分けるのがふたりのクラスメートで学園唯一のオメガであると、皆が気付く。自然と空いた道を通り、聖利は場の中央に躍り出た。
「來、木崎、何をしてるんだ」
來が足をどける。むせる木崎を友人たちが助け起こした。
「生徒会役員サマの登場?」
來がふっと鼻で笑う。
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