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「私が推すのは、選んでいるのはオメガ側であるという説です。転化因子を持つアルファは、『この遺伝子が欲しい』というアルファを見つけると、オメガに身体を作り変え惹きつけるのです。優秀な遺伝子を残すという目的を果たすためにね。“運命の番”というロマンチックな思想より、よほど現実的で理に適った生態だとは思いませんか?」  聖利は言葉が出てこない。その説を信じるなら、來のために自分は身体をオメガに変えたということになる。 (そんなに僕は……來のことを……)  驚きと困惑と、猛烈な羞恥を感じた。梶はどこか楽しそうに続ける。意地悪な目的などなく、純粋に自身の得意分野を語れることが嬉しい様子だ。 「転化オメガは本質的にはアルファなのでしょう。アルファの一系統と言っても過言ではない。優れた子孫を残すことに貪欲。非常に傲慢で知略に富んだ、素晴らしく優秀な種と言えます」 「お医者さまの言葉とは思えないです」 「いや、すみません。私はこの分野が専門なもので。聖利くんの主治医になれたことは、僥倖と思っていますからね」 「正直ですね」  とても楽しそうな梶に苦笑いを返し、聖利は思った。  來のためにオメガになったのだとしたら。來を惹きつけ手に入れるために身体を作り変えたのだとしたら。……確かになんとも傲慢だ。そしてそんな欲深い自分はおおいに頷ける。オメガなら來との未来を望めたかもしれないと、三年間何度も考えたのだから。 「抑制剤、別な種類のものをお出ししましょう。容量は増やさなくてもいいと思います。その彼には効かないかもしれませんが、また状況を教えてください」  一応、真面目な口調に戻り、梶は告げた。 「聖利くんの性成熟が完成し、番を作れるようになるのは三・四年先です。きみはまだ高校一年生ですし、ゆっくり考えてみてもいいのではないですか?」 「……はい」  恥ずかしいような気持ちで頷き、聖利は病院を後にした。 帰り道、空いたバスの座席に座りながらぼうっと考える。 來が欲しくてオメガになった。その事実は、衝撃でもあったが納得もあった。そうだ、だってずっと來が好きだった。 アルファ同士だから告白できない。将来は望めないと気持ちに蓋をしてきたのだ。 それなら、オメガになった今、なぜ來に気持ちを伝えない? 答えは簡単だ。結局アルファであることは、体のいい逃げ口上だったのだ。 怖いだけなのだ。來が好きだから、拒絶されたくない。ライバル関係で切磋琢磨していければいい。少なくとも來の特別な友人ではいられる。……臆病者だ。 聖利は思う。來と話をしてみよう。素直な気持ちで、飾ったり隠したりせずに。 その結果、傷ついても仕方ない。來のためにこの身体は作り変えられた。それでも、聖利自身の身体であることに違いはない。 もし、來への恋に終止符を打つことになったら、新たな気持ちでオメガとして生きて行こう。自分にはそれができるだろう。

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