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***  結局その夜は夕食前も後も、來は自室にいなかった。また学園を抜け出しているのかもしれない。  いったいどこへ行っているのだろう。來についてはまだ知らないことだらけだ。  いつか大企業を継ぐ立場にあるエリート。学校という括りがなければ、出会うこともなかった男。  來について知りたいなら、もっと話せばいいのだ。意地を張らずに、素直な気持ちで『おまえのことが知りたい』と言えばいい。今まではできなかったことを、これからしていけばいい。  日付が変わる。聖利はベッドに入った。明日こそ來に会いに行こう。    どれほど時間が経っただろう。  聖利は異様な気配で目覚めた。それは複数の息使いだった。暗闇の中、この部屋に自分以外の何かがいる。  おかしい。施錠はしているはずだ。じわりと手のひらに汗が滲んだ。  どちらにしろ、このままではいられない。呼吸を止め、聖利は掛布団を跳ね除けて身体を起こした。ベッドの上で膝をつき、臨戦態勢を取る。 「誰だ」  低く尋ねると、笑い声が聞こえた。最初は低く、やがて複数人の嘲笑が室内に響く。 「起きちゃったじゃねえかよ」 「おい、オメガ。良い子で寝てれば気持ちよくしてやったのに」  人影は四つ。月灯りがさっと窓から差し込み、暴漢たちの顔を照らした。 「添川……副寮長……」  中央に立っているのは添川だった。周囲の男たちは寮役員ではないが、見たことのある者もいる。 「楠見野、おまえが特定の番を持つつもりがないなら、俺たちが相手してやろうと思ってな。オメガは性欲が強いそうじゃないか。毎晩つらいだろう」  添川が侮蔑を含んだ目で見つめてくる。なるほど、副寮長なら鍵束の保管場所はわかるだろう。聖利はふっと笑ってみせた。 「不勉強がすぎますね。もしくは差別意識が強くて驚きます」 「おいおい、オメガがうるせえぞ」  添川の横の男が笑う。 「いいから、服脱いで脚開けよ。女みたいに濡れるんだろ? 俺たち全員で味見してやるから」 「下品ですね、本当に」  低く答えながら、聖利は内心思っていた。さすがに四対一はまずい。大騒ぎすれば、周囲の部屋に聞こえるはずだ。誰か助けがくるかもしれない。しかし、それより先に口をふさがれ、四肢を押さえつけられては叶わないだろう。  さてどうするか。どくんどくんと鳴り響く心臓。手足に血がいきわたる。大丈夫、身体は闘う準備をしている。男たちがじりっと間を詰めてくる。

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