65 / 88

6-7

 添川が醜い愉悦の顔で見下ろしてくる。 「これから、貴様を抱いてやろう。俺のメスになれることを光栄に思え。番にもしてやる。おまえが嫌がろうが、オメガなんて首を噛んでしまえば俺のものだからな」  この男は知らないのだ。聖利がまだ番を作れるオメガにはなっていないと。  ここでこの連中に輪姦されたとして、聖利は誰のものにもならない。かといって、犯罪者たちに身体を自由にされるのは御免だ。  おそらく、何かひとつ騒ぎを起こせば助けはくる。この場所なら、誰かが見つけてくれる。何をしたらいい? 何を……。  冷静に考えているつもりで、頭に浮かぶのは來の顔だった。  來に会いたい。こんなやつらに自由にされる前に、來のものになりたかった。  諦めるなと思いながら、涙が滲んでくる。  もっと早く好きだと言えばよかった。素直に伝えればよかった。臆病な自分が馬鹿だったのだ。  來に会いたい。來に。 「そうやっておとなしく泣いていろ。オメガなんて突っ込めばすぐに……」  添川の言葉が途切れたのと、その身体が思い切り真横に吹っ飛ぶのは同時だった。  何が起こった?   引き倒されたままの聖利の目に、月光を背負った來の姿が見えた。  息を切らし、冷たいまでの美貌は蒼白で凄みすら感じる。添川を殴り飛ばした拳がぶるぶる震えていた。 「てめぇら、聖利に何をした」  底冷えのする声が響く。整った顔が怒りに染まるのが見えた。男たちが聖利から手を離し、後退る。本能的に來の持つ迫力に気圧されているのがわかる。 「聖利に触ってタダで済むとは思ってねえだろうな。覚悟しろよ」  止める間はなかった。暴漢たちは数秒のうちに、來に殴り倒され、蹴り揚げられ地面に沈んだ。  まるで野生の獣のようにしなやかで力強い立ち回りだった。頬に飛んだ返り血すら美しい。 來は首謀者を逃がす気はないようだ。ずるずると這って逃げようとする添川を捕まえ、前髪を掴み上げた。 「おいおい、好き勝手やっておいて逃げるのはねぇわ」  目は血走り、激しい怒りで声は嘲笑しているように聞こえる。

ともだちにシェアしよう!