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「一度見逃してやったってのに馬鹿だな。やっちゃいけないことを繰り返すのは、どういう了見だ? 直接身体に教えた方がいいか」
「ゆ、るしてくれ……」
來の目がぎらりと光り、口元がにいっと不穏に引き上げられた。
いけない。聖利は飛び起き、來の腕にすがりついた。
「やめろ、來!」
「駄目だ。こいつはおまえを傷つけた。生かしておいたらおまえのためにならない」
來は引く気はないようだ。しかし、これ以上は過剰防衛である。來の進退に関わる。聖利は必死に來に言い募る。
「僕は大丈夫だ。何もされていない」
「聖利を害そうと考えただけで罪だ」
「これからは、おまえが守ってくれればいい!」
怒鳴るように言った言葉に、來がこちらを見た。凶暴な瞳の色が薄れている。聖利は來の腕を引き、添川から引きはがした。
「……來が僕を守れば、この先危険なことは起こらない。問題ないだろう?」
聖利は來を見上げ訴えるように言った。こんな男のために來が将来を棒に振る必要はない。
すると、來がこくんと子どものように頷いた。
「わかった」
どうやら、納得してくれたようだ。というより、聖利の言葉はかなり効果があったようで、來の怒りと興奮は小康状態となっている。
時を同じくして、遠く聞こえていたざわめきが近づいてきた。ふたりが顔をあげると、高坂や島津、一般の生徒らが複数名こちらに走ってくる。
「楠見野! 怪我はないか?」
高坂が駆け寄ってきた。事態はもうあらかたわかっているようだ。
「はい、お陰様で」
遠くパトカーのサイレンが聞こえる。校門の方向も騒がしい。
「警察を?」
「状況を考えたらそうすべきだと思った」
高坂は苦渋の表情をし、島津と並んで地面に座り込む添川に近づく。
「添川、残念だ。こんなことになるなんて」
添川は放心したように何も答えなかった。
聖利の腰に手を回し、來が寄り添う。髪に顔を埋めてくるのを振り払う気はなかった。來の温度と香りに心から安堵し、聖利はそっとこめかみを來の頬に押し当てた。
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