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 來はしばらく黙っていたが、やがて小さな声が返ってきた。 「親元を出なきゃならない日がくるかもしれないから、自活できるように。……俺がずっと好きだったヤツは、……親には反対される相手で。そいつは俺のこと好きじゃないかもしれないけど、もし……こっちを見てくれるなら……準備だけでもって」  來が頬を赤らめ唇を噛みしめるのが見えた。それが誰だか、今ならもうわかる。聖利は涙をこらえ、言った。 「僕にも好きな人がいる。中等部一年からずっと好きだった。僕の身体は彼のためにオメガになったらしい。彼の近くで過ごす毎日が、オメガに転化するトリガーだった。そう、医師に言われたよ」  來が顔をあげた。  これで伝わってしまうだろう。それでいい。來にこの気持ちを伝えたい。 「僕は傲慢にも選んだんだ。番にしたいたったひとりのアルファを。抑制剤じゃ消せない香りで彼を誘惑し、彼を手に入れるために」 「聖利……おまえ」 「僕はおまえだけのオメガなんだ、來」  來は何か言おうとしたようだった。しかし、唇が空振りする。そして次の瞬間、來の力強い腕が聖利の身体を抱き寄せた。 「好きだ、聖利。ずっと、ずっとおまえだけが好きだった。アルファもオメガも関係なく、おまえだけが」 「僕も來が好き。大好きだよ。強くて美しいおまえに、どうしようもなく惹かれてた」  互いの身体を惹き寄せ合い、きつくしがみつき、思いのたけをぶつけ合う。やっと言えた。  叶えるはずではなかった恋は、絶対に手放せない想いになっていた。  來との未来を望みたい。選び取りたい。 「おまえのためにオメガになったんだ。重たい男だろう?」  聖利は涙の滲んだ瞳を細めて笑う。 「ずっと一緒にいてくれるか? 來」 「当たり前だ。おまえは俺が幸せにする。死ぬまで俺の傍にいろ」  重ねた唇は、どんな蜜より甘い。待ちわびた最愛の熱に心も身体もとろけていく。  このまま身体を重ねてしまいたい衝動を、ふたりは必死に抑えなければならなかった。  やがて梶医師が様子を窺いにきたタイミングで、來は名残惜しそうに帰っていった。 「お邪魔しちゃったかな?」  梶は相変わらず楽しそうな声で尋ねる。聖利は熱くなる頬に触れながら、「いえ」と短く応えた。幸福でどうにかなりそうな朝だった。

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