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さほど待たずに、外を生徒が歩く音がきこえだし、部屋のドアがいきなり開いた。
「聖利!」
立ち上がると、駆け寄ってきた來が腕を伸ばしきつく抱き締める。先ほどとは打って変わって熱烈な態度に、不機嫌がポーズだったことはすぐにわかった。
「会いたかった」
耳元でささやかれ、胸がぎゅっと苦しい。会いたかった。とても会いたかった。やはり同じ気持ちでいてくれたのだ。
「來、ごめん、遅くなって」
「おまえの親、おまえのことを返したがらなかったんだろ?」
來が顔を覗き込み、切なく眉根を寄せる。
「これ以上かかるなら、迎えに行くつもりだった。おまえの親と話をして、それから聖利を連れて戻るつもりだった」
「そんなことを考えてたのか?」
驚いて聖利は目を見開いた。來は想像したよりずっと真剣に自分たちの関係を考えてくれていたのだ。
「大丈夫、説得できたよ。……その、番になりたい人がいるから、学校から離れたくないって言って」
今度は來が驚いた顔になる。聖利がそこまで両親に話すとは思わなかったのだろう。聖利はうつむき、言い訳のような説明をする。
「おまえには迷惑かもしれないけど、そう言えばむやみに引き離そうとはしないだろ? いつかその人に番になってもらえば、今よりもっと安全にヒート期を迎えられるって話も……」
言い終える前に、來がキスしてきた。いきなり深く唇を重ね、ちゅくちゅくと舌を絡めてる。自然と聖利も求めに応じる。
「いつかおまえの両親に挨拶に行くから」
唇を離した來は頬をあからめ、照れたように視線をそらした。そんな恋人の初々しさも真摯さもものすごく愛しいと思った。
「來、会いたかったよ。すごく」
頬を両手で包み、間近く見つめる。來の男らしく端正な顔のすべてにキスしてしまいたい気分だ。
「俺もだ。聖利のことばっかり考えてた」
軽くキスを交わし、見つめ合う。身体が熱い。ヒートではないと自覚があるけれど、内側が静かに燃えている感覚がある。
「來……僕は、今も甘い匂いがするか?」
「ああ、すごくする。俺にしか感じない匂いなんだろ」
「そうだよ。おまえのための匂い」
聖利はドクドク鳴る心臓を持て余し、意を決して來の首に腕を回して抱きつき、身体を押し付けた。
「誘い方がわからないんだ。……これで合っているか?」
「馬鹿、可愛いこと言って煽んな」
來が聖利の身体をひょいと抱き上げた。そのまま來のベッドに運ばれる。最初のヒートのときも同じ状況だったなと思いだす。違うのはお互いの気持ちを知っているかどうか。
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