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エピローグ-1
初夏の日差しはすでに強く、体育着のジャージやTシャツ姿の生徒たちは、全員汗だくだった。
「午前中うちが勝負だぞ。頑張れ」
寮長の高坂が声をかけ、生徒たちは口々に「はい」と返すものの、誰もがバテているようである。
ある者は地面に屈み込み草むしり、ある者は寮の窓ガラスを外から拭く、ある者は枝切鋏で庭木の剪定。今日は全員参加の清掃だ。寮周辺と校舎までの道を掃除することになっている。
校舎周辺や中庭など対外的に見られることが多い部分は業者が入るが、寮の外回りは学生の自治のもとふた月に一度清掃作業が行われるのだ。春は散った花びらやさかんに茂る雑草の処理が大変である。さらに外清掃の後は、屋内で自室と廊下や階段の清掃だ。半日以上が掃除でつぶれることになる。
「こら、來! サボるな!」
校舎外壁の汚れや花粉を落とすため、家庭用の高圧洗浄機を手にしていた聖利は、ダラダラとベンチに腰かけている來に怒鳴る。
「休憩だよ、きゅーけー。高坂寮長のパシリで備品の買い出しに行ってきたばっかなんだぞ。少しくらい休ませろ」
ベンチにふんぞり返って偉そうなことを言う來。
「寮役員の仕事だろう。いちいち威張るな。どうしてもひと息入れたいなら、こっそり屋内で休め。こんなところでだらけられたらみんなの士気にかかわる」
「士気って軍人かよ、おまえ」
來は面倒くさそうに言って、あくびをする。まったくベンチから動こうとしないあたり、非常に挑発的だ。
「原沢、聖利ずっとこんな調子か? 掃除くらいではりきりすぎじゃねえの?」
さらには、聖利の横で手伝う知樹にそんなことを言う。知樹は知樹で苦笑いをしている。
「聖利はふた月前の清掃に出られなかったからね。その分、頑張ってるんだよ。海瀬、言うこと聞いといた方がいいぞ」
「しょうがねえなぁ」
だるそうに立ち上がった來が聖利に近づいてくる。何かと思って見ている間に後ろから抱き締められた。正確に言うと、後ろから一緒に高圧洗浄機を持ち、支えているのだ。
「非力な聖利を手伝ってやろう」
「ば、馬鹿! 離せ!」
周囲には生徒だらけだ。ふたりの関係は公にはしていないが、察している生徒多いだろう。何しろ交際を始めて以来、來はまったく隠す気のない態度。おかげで聖利に寄ってくるアルファは激減した。
とはいえ、皆の前でべったりくっつかれるとさすがに焦る。風紀が乱れるし、さらに今は寮の仕事中なのだ。
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