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エピローグ-2

「こらこら、公共の場でイチャつくな。馬鹿ップル」  知樹が笑顔でツッコミを入れてくれるが、來はなかなか離れようとしない。どころか、聖利の耳元に唇を寄せて言う。 「あ、駄目だ。聖利とくっついてると、勃つわ」 「何を言ってるんだ!」 「一度、部屋で休んでこよう。な?」 「休むならおまえひとりでいけ!」 「冷たいこと言うなよ」  するりとTシャツの中に手が侵入してくる。腹をなでられ首筋にキスをされ、さすがに聖利は怒った。調子に乗り過ぎである。というより、來は困る聖利のことを面白がっている。  すうと息を吸うと、思い切り背後の來の顔に後頭部で頭突きした。 「ぐっ! い、ってぇ! てめえ、聖利!」  のけぞって呻く來の腕から抜け出し、くるんと振り返ると、聖利は腕組みで睨みつけた。 「天罰だ」 「いや、天罰っていうか、おまえの暴力……」 「まだやるなら、掃除の後に受けて立つぞ」 「聖利って本当に可愛くない性格してんな」  双方互いを不穏な笑顔でねめつけ合った。知樹が横で、やってくる高坂に向かって「寮長ー、海瀬くんと楠見野くんが喧嘩してまーす」と小学生のような密告をする。  聖利は目の前のライバルで恋人を見つめ、ふっと表情を崩して笑った。 「今度はなんだよ」  聖利の変化に來がいぶかしげな顔になる。 「いや、なんでもない」  好きだよ、心の中で唱えた。  たったひとりの愛するアルファ。未来の番。  まだ若い自分たちには、困難もたくさんあるだろう。正式な番になれる日は遠いし、それまで同じ気持ちの強さでいられるかわからない。ふたりが共にいることをよく思わない者もいるだろう。番になったとしても、彼や彼の家族の望むオメガの役割を果たせるかもわからない。  それでも聖利は來と生きていこうと決めた。困難はすべてなぎ倒し、この先も一緒に時間を重ねていきたい。來のために変わった自分なのだから、隣に並び立ち、胸を張って生きていきたい。この命の終わる瞬間まで何十年も。 「聖利、ちゃんとするから、あとでキスな」  來が顔を寄せて、耳元で小さくささやいた。知樹や近づいてきた高坂たちに配慮しているようなので、本気の嘆願だ。可愛いな、と聖利はほくそ笑み、そっと頷いた。 「ほら、まずは掃除だ、掃除」 「わかったって」  眩しい陽射しの下、來がうんと伸びをする。  汗が首筋をつたうのが見え、厚い胸と骨ばった腕のラインが綺麗だった。しなやかに美しい恋人を、聖利は愛しく微笑んだ。 (end) ※ここまでお読みいただきありがとうございました。 次ページより番外編です。

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