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番外編-2

***  聖利と來が交際を始めて、およそひと月。夏休みを目前にし、この計画は主治医の梶医師の発案で成った。 『番候補の恋人がいるなら、ふたりでセカンドヒートの期間を過ごしてみるのはどうですか?』  梶医師は、バース性の専門医だ。さらには聖利のことを貴重な検体だと思っているふしがある。 『でも、先生、僕は抑制剤の効果でヒート症状は出ないのではないですか?』  聖利は後天的なオメガのため、体質上抑制剤が効きやすい。現状、來以外で聖利のフェロモンを感知できた者はいないくらいだ。梶は首を左右に振る。 『ほぼ無症状に見えますが、ヒート自体は軽微に起こります。むしろ番候補のアルファくんには、その状態の香りの強弱や変化をレポートしてほしいですね』  完全に研究目的だが、確かに症例の少ない転化オメガだ。今後、自分と同じ症状に悩む者が現れたとき、先人として経験を活かしてもらえるならそれが一番いい。 『もし強いヒート症状が出たら来院してもらいますが、軽いヒート症状なら恋人といることで安定するかと思いますよ。まだ番にはなれませんが、今後のヒートをともに乗り越えていく準備としていかがでしょうか』  そういうことなら、來に声をかけてもいいかもしれない。正直、聖利はこれから始まる夏休み、來と会えないことだけが苦痛だった。  やっと実った恋、愛しい恋人とひと月以上も離れ離れなんて耐えがたい。  セカンドヒートのためといえば來に協力を要請しやすいし、早くイギリスにおいでと待ち構えている両親も説得しやすい。 『期間は約一週間。だいたいの予測は今日の血液検査でわかると思いますので、予定を立ててみてください。なお、病院関連で宿泊施設もご紹介できますが、あまり雰囲気は出ないかもですねぇ』 『そ、そうですね。考えてみます』  雰囲気、それは恋人同士の蜜月を過ごすなら……という意味だろう。聖利は赤くなりながら、コクコクと頷いた。

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