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番外編-4

*** 「夕飯、カレーとかにするか?」  大型スーパーがない都心部、ふたりはデパート地下の生鮮食品売り場に来ていた。少々値は張るが物はいいし、そもそも他に買う場所がわからない。  聖利の実家は同じ都心部といってもベイエリアにあり、ファミリー層が多く住むせいか、割とスーパーやホームセンターは大型店舗があった。 「カレー……小学生のキャンプかよ」  來がニヤニヤと返すので、聖利はむっとして見上げる。 「なんだよ。嫌か?」 「聖利って本当に料理できないんだなあって。前に言っただろ、俺、料理できんの」  はっと思いだす。確かに付き合う前、同じ大学に行かないか、ルームシェアをしないかと誘われた。そのとき、來は家事ができると言っていた。 「バイト先のカフェバー、厨房も少し手伝ってたから。今日から七日間、飯は俺担当ね」 「そ、そんなのずるい。僕だって頑張れば……」 「俺って割と尽くす方だから」  來が顔を近づけ、耳元でささやく。 「七日間、たっぷり奉仕させろよ」  別な意味も多分に含んでいそうな言葉に、聖利は來の身体を押しのけた。耳や首まで赤くなってしまったのを隠すようにぷいとそっぽを向く。  こうした態度が以前は喧嘩のもとだったけれど、恋人となった今は違う。聖利の照れ隠しが來には伝わるようだ。 「わかった、わかった。外ではくっつかないから」  來は聖利から離れ、『何もしません』と言わんばかりに両手を顔の横に万歳して見せた。 「どうだか。寮では、いつだってベタベタしてくるじゃないか。風紀が乱れるからやめてほしいといつも言っているのに」 「まあ、虫よけの意味もあるし」  他の男を寄せ付けないためということだろうが、大勢の学生の前で性的に触れられたり独占欲を示されるのは、聖利が困るのだ。生徒会役員としても学園唯一のオメガとしても。  キッと睨むと、來がはいはいと苦笑いした。 「最近は前より我慢してるって。高坂寮長がうるせーからな。『楠見野のことを考えるなら、自制しろ』って怒鳴んだよ。ホント、指導が体育会系」  じゃがいもや葉物野菜をどさどさとカゴに入れながら來は言う。來が高坂寮長付きの寮役員になってひと月ほどだ。その指導はなかなか厳しいらしい。 「僕や、他の寮生には優しくて頼りになる寮長だよ。來の素行が悪いから厳しくされてるんじゃないか?」 「あいつの本性、あっちの厳しい方だって。マジ、うるせえ。一ヶ月経ってないのに、俺、寮長付きの仕事、完璧にさせられたぞ」  それは來に能力があるからだろう。高坂寮長は來に期待しているから厳しいのだ。  おそらく來は来年度に副寮長職に就き、三年次に寮長となるだろう。学園一の問題児が、今や前途洋々の寮役員である。  そのとき、自分が生徒会の役員として來と並び立てたらいい。聖利のひそかにそんなことを考えている。

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