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番外編-5
「ガッコ休みになったし、寮長の話はいーや」
買い物量を考えて、來が入り口からカートを取ってきた。
「これから七日間、聖利とふたりっきりっていうのが大事だよな」
聖利もそれは同感だ。さりげなく頷くが、嬉しくて頬が緩むのを抑えきれない。
「來、実家に帰るのが遅くなるのは本当にいいのか?」
「こっちのマンションで過ごすことも多いって言っただろ。まあ、母親には友人と叔父貴の家で勉強してから帰るって言ってある。学年トップでルームメイトの楠見野ってヤツって。ここまでは明かしてるよ」
おそらくオメガとは言っていないのだ。将来の番候補とも。
來は海瀬グループの御曹司。恋愛を理由に、仲を許してもらえるかはわからない。聖利としては、自分のバース性がオメガとして成熟してから報告してほしいと思っている。確実に後継者を成せる身であるとアピールしておきたい。
聖利の表情の不安を見てとったのか、來が顔を覗き込んでくる。
「うちの母親はオメガだから、たぶん俺とおまえの結婚、大賛成だぞ」
「けっ……けっこん!?」
「焦んなよ。番になるんだから、結婚するだろ? 俺のパートナーだろ?」
それはそうだが、面と向かって言われると恥ずかしい。さらにはこうしてふたりで買い物などしている状況も相まって、落ち着かない気持ちがいや増す。この同棲は結婚生活の予行演習も兼ねているのだと気づいてしまった。
「親父はまー……基本喋んねーからわかんないけど。どこかから婚約者を連れてくる前に、聖利のことは話す」
「反対されるかも……。僕はまだ完全なオメガじゃないし」
「させねーし。っつうか、あの親父も見合いしたアルファの女、全員振って、大学の同級のオメガの母親を嫁にしてんだ。アルファの女は主張が激しくてうるさいとかムカつくこと言って。我儘貫いてんだから、俺も好きにさせてもらう」
その言葉になんだかほっと肩の力が抜けた。そして、來の両親のちょっと情熱的な馴れ初めに俄然興味がわいた。いつか紹介してもらえるのだろうか。
「僕、來のパートナーになれるかな」
「なれよ。俺もまだ完全におまえの父親に許してもらえてないし、何かあったら駆け落ちしてでも一緒になるぞ」
「ふふ、そうだね」
聖利の返す笑顔は、取り繕うこともできないほどふわふわに緩んでいた。
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