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番外編-6
ふたりで両手いっぱいの荷物を下げて、マンションに帰宅した。熱い真夏に外を歩きまわり、全身汗びっしょりだ。
「來、僕の甘い匂い、強くなってない?」
荷物をしまいながら、聖利は尋ねる。予定的には今日からヒートのはずだ。しかし、聖利の身体に変調はない。
汗をたくさんかいたし、フェロモンの匂いが出やすくなっていては困る。確認を頼もうと近づいてうなじを差し出すと、來が戯れにかぶっと噛みついた。
「いたっ」
「しょっぱい」
「当たり前だ!」
怒る聖利に、來が笑って答える。
「正直に言えば、おまえの匂い、二日前くらいから徐々に強くなっていってる。でも、寮長や生徒会長みたいなアルファも気づいてないみたいだった。たぶんわかるのは俺だけだな」
「え、そうだったのか?」
「一応、この同棲はそのへんのレポートも必要なんだろ? 俺、真面目だから、観察してんだよ」
うそぶく來に、聖利はひとり焦ってしまった。自分にはわからなくとも、來にはわかるのだ。
「僕自身は、ヒートがきてる感覚がない」
「それでいーんじゃねーの? だって、抑制剤が効きやすくて無症状って言われてんだろ? 転化オメガは。教科書通りじゃん」
「なんか逆に心配。ヒートが来なくて、このまま中途半端なオメガで固定されちゃうのかって」
どうせなら完全なオメガになりたい。そうすることで、來との未来を望みやすくなる。
來が笑って、今度は唇にキスをくれる。
「そういうことなら安心しろ。おまえの中でヒートは起こってる。未来の番の俺にはわかる」
「來……」
來の腕がするりと腰に巻きつく。そのまま引き寄せられ、キスが深くなる。
ちゅぷちゅぷと音をたて、唇を味わうと、芯がじんと熱くなった。
「だ、駄目だ。まだ……」
「このままふたりでシャワー浴びて、する?」
髪をかき分けられ頬を両手で包まれた。間近く見つめ合えば、來もまた欲情し始めているのがわかる。だからこそ、聖利はなけなしの理性で精一杯來の身体を押し返した。
「そういうのは夜にしよう!」
「ちぇ、せっかくふたりきりで昼夜問わずやり放題だと思ったのに」
確かに寮と学生生活では、どうしても夜に忍ぶようにしか愛し合えない。狭くて同じベッドで寝ることもできないし、時間には限りがある。
しかし、いざそんな環境が手に入ったからといって、獣のように求めあってはまずいような気がするのだ。互いの身体に溺れきって戻れなくなりそう。それほどに來とのセックスは幸福で心地良い。
「わかった。夜まで我慢する」
來はふうと息をつき、紳士的に諦めてくれたようだ。買いもの荷物の整理に戻るため、身体を離す。それから思いだしたように言った。
「あ、ここ壁、厚いぞ。声はどれだけ出してくれてもいい」
「え……っ!?」
「寮だと声我慢しなきゃだろ? いつも俺がキスで塞いでやるもんな。……今夜はたっぷり聞かせてくれ」
「ばか。來のばか」
聖利は真っ赤な顔を隠して、背を向けキッチンへ入っていった。
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