3 / 34

第29話 勝者と敗者

何度も繰り返される激戦に体力も銃を支える腕も疲労困憊で体が重い。黒とレオは疲労の一つも見えないまま、撃ち合いを続けている。 「…ぐぅ‥っあ…!」 黒の放った弾がレオの脇腹を的確に刺した。徐々にではあるがこちらが優勢に傾いている。それでもレオの部下が崩れる体を支え、尚も抵抗を続けていた。 「…貴様、余裕だな。攻撃を止めるのか」 その言葉の後、黒は部下の頭を撃ち抜いた。蛇に睨まれた鼠が隙を見せたら最後、助かる見込みはない。ボスを支えるため身を呈した姿は立派だが、負けてしまえば全て無意味だ。 部下が倒れた姿を見つめていたレオが頭角を現したかのように睨み、立ち上がった。闘志も殺意も失われていない。むしろ殺意は増してるように感じた。 「僕の部下を…無抵抗の人を殺したのか…」 「失いたくないなら、なぜ屈しなかった。そうすれば救われたかもしれない」 「お前に負けることは…死んだ者たちが許さない」 「くだらん…」 黒がレオの右上腕と左大腿部を撃ち抜いた。レオも残された左手で黒の左上腕と腹部を撃った。2人の戦いに援護することも出来ず、残された部下を蹴散らすことしかできない。 黒のスーツが鮮血に染まった。徐々に広がるそれを見て堪らずレオの額に向けて発砲した。当たるかどうかは一か八かだった。 「ぐぅ…っうう…ぐぁあ!」 「周…!」 レオが後ろに倒れるのを見つめていたが、腹部と右腕に激痛を感じる。撃たれてない筈なのに感じる痛みの原因が分からず戸惑ったまま、床に倒れたのだった。 「周――!」 「…黒。…俺…撃たれた?」 「くっ…腹に2発、腕に1発被弾している」 レオが生き絶える前に最後の足掻きで発砲したのが的中したみたいだ。黒が抱きとめて眉をひそめ悲しそうな表情をしている。 「勝った?…俺たち」 「…レオは絶命した。だが…勝ったわけではない」 「黒。そんな顔しないで…俺、黒が死ぬと思って。腹撃たれたでしょう」 「撃たれたのは腰だ…」 あの時黒は腹を撃たれたと思っていた。だが避けてかろうじて軌道をずらしたようだ。早とちりして無謀な手に出た結果、ひどい怪我を負ってしまった。このまま死ぬと思うと後悔ばかりが募る。 「…黒、愛してる…大好き」 「やめろ。もう私は…失いたくない」 「…ねぇ、黒。どう思ってる?」 「…私は…周を…愛している。だから死ぬな」 死にたくないし死なせたくない。わがままだけど黒だけは失いたくない。やりたいことも出来てないのに死ぬなんてごめんだ。思い描いた未来を現実にさせたかった。 遠くから足音が聞こえる。黒、逃げて…まだ死んじゃいけない。野望のため、どこまでも突き進んで欲しい。そんな願いを込めて心で祈り続けた。 「首領、ご無事ですか!」 この声は…燈‥そうか。敵かと思ったが違った。もう視界が霞んであまりよく見えない。声も徐々に小さくなっているような気がする。さっきから寒くて寒くてたまらない。これが死ぬということなのだと思うと怖くなった。 「周が撃たれた…で――だ…」 「…ました。…を――です」 黒、何言ってるの?誰と話してるの?もう何もわからない。ただ最後までそばにいるのだということだけはなんとなく感じていた。彼のコロンの香りだけがその事実を知るすべだった。

ともだちにシェアしよう!