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第29話 勝者と敗者
20××年。秋。
木枯らしが吹き荒れるA国、某所。
ラストアイランドと呼ばれる島にいた鮫牙という組織は鷹翼との抗争に勝利を収めた。爆発による犠牲者は数千人にわたり、抗争により亡くなった者も多く出た。
後にも先にもこの島で起きた悲劇はこれ以上ないものとなった。
現状復帰とライフラインの復旧を主に行った鮫牙の活動で復興し、少しずつだが元に戻っていった。ただ理不尽に大切な命を奪われた家族や恋人たちの気持ちは回復、再生することはないだろう。
それから数年の後、レジャー施設や娯楽施設を建設、ホテル経営からカジノ経営を始めラストアイランドは全世界からたくさんの観光客が訪れる娯楽の島と言われるまでに成長を遂げた。昼夜問わず賑わい、別名眠らぬ島とまで言われている。
そんな島を収めるのが鮫牙であり、首領の黒璃秦である。その傍にはかつて抗争で大怪我を負った周青黎の姿もあった。
一命を取り留め医師も驚くほど治癒した彼とは別に黒は杖をついている。腹部への被弾を避けるために逸らした銃弾は腰部に刺さったが神経損傷を起こした結果左足に後遺症を残した。それでも彼らは生きている。
彼らの今の拠点はA大陸のA国だ。抗争後、現状復帰させ時間的余裕ができ以前訪れたことのある孤島でのんびり過ごしていた。そんな有意義な時間の裏で黒は根回しやら準備をしていたようだ。
急にA国に行くと言われた時は驚いた。「何の後ろ盾もなく言ってどうするの?」と疑問を投げかけると「誰が何もないと言った」と得意げな顔をされた。
A国でも割と忙しく休む間もない。孤島で過ごした時間が懐かしく感じる。昨日は日付が回ってから帰宅して2人でベッドへ直行し死ぬように眠った。
「周、いつまで寝ているつもりだ。相変わらず朝が弱いやつだな」
「もう少し…昨日遅かったんだし」
「怠けるな。抗争が終わってからというものお前は銃の訓練を怠ってるだろ」
黒に無理やり叩き起こされるのは常だ。抗争で勝利し生きるために血反吐にまみれて訓練してきたが、今の鮫牙はあくまでクリーンなビジネス組織でありマフィアということは伏せられている。
銃は携帯していても披露する場がなければやる気も出ないというもの。
「だって護衛は他にいるし誰かを排除するわけでもないのに…」
「鷹翼の残党は狩ったが奴らの本拠地はラストアイランドにはない。I国にある。そこの奴らが報復してこないとも限らない」
「じゃあ常に危険なのは変わらないんだね」
どこにいても安全ではないのなら、また鍛えなければ黒を守れない。今の黒は以前ほどの勢いはないが秘めた野望は山のようにある。そして足を不自由したことで避けれていた弾も機敏に動けず当たってしまうかもしれない。銃の訓練を再びしなければ、彼を失うことになるだろう。
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