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第31話 ライバルの真意
「黒‥」
「おい‥ここは‥」
キスしたら黒が驚きの声を上げて狼狽えた。すごく珍しい。不意打ちのキスでそんな風になるなんて思ってなかった。場所が場所なだけに驚くのもわかるが、常に無表情で余裕ありげな黒とは思えない反応だ。
「ったく‥お前は‥」
「黒…照れてるの?」
「場所をわきまえろ」
そっぽ向いた黒にごめんと謝り再び射撃に集中した。黒が直々に教えることは珍しい。他者よりも特別な扱いを受けることはこの上なく心地いい。優越感というやつだ。
密着しているせいかスーツ越しでもはっきりと体の熱を感じる。背中に胸が当たるたびに黒の鼓動が響いてくる。生きているのだと実感できて何処か心地いい。
あの日あのまま目を覚まさず死んでいたら、こんな未来を歩むこともなかった。まだ思い描いたのんびり気ままな生活には程遠いけど、生きていられて良かった。
撃たれて生死の境を彷徨っていた時黒の夢を見ていた。さようならと言って去っていこうとする彼を追いかけるが、一歩も動けず走っても微動だにしない。悪夢ばかりだった。
死の恐怖を感じたあの日から俺は一人では眠れなくなった。黒が隣で寝てくれないと怖くて目も閉じられない。そんなことを察してか、黒は早く来いとベッドに導いてくれる。
黒も足に後遺症が残り、俊敏性を失った。でも命だけは助かった。腕の被弾した箇所は神経に触れていなかったおかげで今も不自由なく動く。
互いに失ったものはあるけど最も手放したくないものは守ることができた。
しばらく指導を受けた後、黒はそばから離れてベンチに腰掛けて見守ってくれていた。抗争の後から明らかに黒の態度が変わった。俺にさらに優しくなった。
まだ慣れなくてむず痒くなる時もあるけど素直に嬉しい。それに独占欲も強くなった。悪い虫がつかないように常に監視されているような気がする。
俺がなかなか目覚めなかったせいで黒は余計に失うことが怖くなったらしい。滅多にしないと言っていたキスも寝る前には必ずするようになった。
組織も新体制になり、黒の心境も変化した。その様子を側で見られるのは光栄なことだ。
また起こるかもしれない抗争の為に念入りに訓練を続けた。以前は守られていたが次の抗争では黒を守る立場になる。ハンデを負った彼を失わない為に、俺はもっと強くなりたい。
これからまた毎日訓練して銃が手に馴染んで同化するくらい。自分の体の一部みたいに扱えるようになってみせる。
俺は心で静かに誓いを立てた。大切なものを守る為に‥‥‥
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